Original Tales 「碧」第一部(8)

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  テレザート星前衛艦隊提督ゴーランドはいつになく苛立っていた。


 気晴らしにハンティングなぞいかがでしょう、と宥める副官の誘いに応じて恐竜惑星へと出向いたはいいが、所詮は下等な獣狩りだ…殺しても殺しても、憂さは晴れない。
 仕舞いにはその惑星ごと破滅ミサイルで吹き飛ばしてみたが、その噴煙のなかにちらつくのは、やはりあの生意気な外様侍のにやついた顔である。奴が不当に、ヤマトへの恐れを俺に植え付けるのだ。
「…副官、帰還するぞ」
「はっ」
 金髪の副官の後ろ頭を、思い切り小突きたい衝動に駆られた。こいつまで、あのいまいましいガミラス総統と同じ頭髪をしているではないか……
「…大流星帯周辺の航海図を持ってこい!ヤマトとの決戦はあそこで行なうぞ!」
「…はっ、しかし…デスラー総統との共同戦線が崩れますが…」
「お前は誰の副官なのだ?!あの負け犬か、それとも俺か」
「……ゴーランド閣下であります!」
 この馬鹿者が。
 ゴーランドは、鼻息荒く副官に八つ当たりした。



 その頃、テレザリアムでは恐竜惑星の消滅を観測したテレサが、ゴーランドの暴挙に眉をひそめていた。
(…生き物のいる星を…。なんて残酷な)
 ゴーランド艦隊は、巨大なミサイルを備えたミサイル艦隊数十隻で構成されている。破滅ミサイルがたった一発でも当たれば、小さな惑星は消し飛んでしまう。恐竜惑星はテレザートからもそう遠くない、自然の美しい惑星だった。大昔、かの星は観光のために開発されたこともあり、見ようによっては愛らしい大型のは虫類がいたことを、テレサも記憶していた。
 怒りをこらえつつ、恐竜惑星の爆発に伴う磁場の乱れや気流の変化の合間に、妨害電波の弱まる気配がないかとモニタを凝視する。

 




「航海長、メッセージ入電!」
 相原の声に、島が駆けつける。「どけ、相原!こちらヤマト!ヤマト航海長、島!」
 相原は苦笑した。半分は反射的に席を立ってしまった自分のせいだが、実はまだ回線をオープンにしていない。
「…慌てないでくださいよ。まだ回線を開いてません」
「チェッ!早くしろよ!」
 照れ隠しに舌打ちする島を横目に、相原は通信回路を開く。解析機のデコーダーから、例の美しい声が流れ出した。
<…私はテレサ。…テレザートのテレサ>
「テレサ、こちら島大介!ヤマトの現在位置は地球中心航法図上のGH337、航路の指定をしてください!」
 島の言葉に、相原はちらと艦長代理の古代を振り返る。地球中心航法図上、ですよ?相手に分かるんでしょうかね?
 その相原の表情に気づいたのか、島が横目で睨む。俺にだって分からんが、これは賭けだ。見てろよ…相手はきっと俺たちと同じ職種の人間に違いないんだ。
<…11時の方向、上下角プラスマイナス2度。…99宇宙ノットで航行して、3日でテレザート星へ到達できます…。ただし…>
 ほら見ろ、どうだ!という顔で、島は続きを促した。「ただし、何です!?テレサ!」
「…また妨害電波だ。この所、敵さん必死だな」
「つべこべ言わずに回復しろ、相原」
「無茶ですよ。まったくもう」
 島さんの気持ちは分からなくもないけど、僕にだって出来ることと出来ないことがあるんだよ、と相原は心の中で文句を垂れた。
「くそっ!」
 島がコンソールパネルをだん、と叩く。
「ああ、そんな乱暴な…」
 相原が島の横っ面を張り倒したい気分に駆られたその時、また唐突に通信が回復した。
<テレザート星は、…ゅうせい帯の向こうに…でも、そこには敵の大艦隊が……用心して…>
 慌てて解析機に耳を傾け、息を詰めながら聞いていた島は、溜め息とともに身体の緊張を解いた。
「テレサ!感謝します。いやあ、貴重な情報だ…!」
<…島さん…、早く…テレザート星へ…>
 そのひと言に、島だけでなく相原も、艦長代理の古代も真田も、一瞬目を丸くした。島が皆を見回し、今にも笑い出しそうな声で言った——
「どうだい、みんな…!初めて「島」と呼び掛けて来たぞ!?」



 その彼の声に思わず笑みを漏らしたのは、ヤマトクルーだけではなかった。
(うふふ…なんて嬉しそうに……)
 それもそうね、とテレサは思った。
 私だって、自分の名前を誰かに呼んでもらうことが…これほど嬉しいとは、ついぞ思わなかったのだもの……。


 島の嬉しそうな声は続いた。
<テレサ、君は一体、幾つなんだ? 声から察すると、多分美しい人なんだろうなあ?>

 ……えっ……
 突然の言葉に、絶句する。美しい、って……私が…?
 顔がぼうっと熱くなる。

<身体はほっそりしていて…>
<島!いい加減にしろよ!>
 別の男の声が急に割り込むと、島は笑いながら謝った。<いやあ、すまんすまん…>
 テレサの耳には、通信機の向こうで笑う男たちの声はもはや入らなかった。そんなことをするつもりはなかったのに、慌てて回線をシャットダウンしてしまう……


(……やだ……私ったら…)


 顔が火照って、耳まで熱い。

 ——君は一体、幾つなんだ? 多分美しい人なんだろうなあ…——

 島の声が、頭から離れない。なんだか胸が苦しかった。
 こんなことを、他人から言われたことはなかった。私のことを知りたい、と言ってくれる人など…かつて一度も、いなかったのだ。
 蒼い宮殿の壁に反射して映る、自分の姿に目が止まる。
 私は…美しいのかしら…?
 比較対照するものがないのだから、そんなことわかるわけがない…
 小さなモニタの中の光点を見つめた。



 ……島さん。
 あなたこそ、一体どんな方なの?
 年齢は…?目の色や、髪の色は……?

 最初に聞いた、ぶっきらぼうで強引な声。次第に落ち着きを取り戻し、今はすっかり自信に満ちた色の声。そして、無邪気に「知りたい」と笑った、少年のような声……。
 ヤマトをこの星に導くために、こうして片時も離れず通信機の前にいたつもりだった自分は、実は、——彼の声が聞きたくて、ここにこうしているのではないかと錯覚するほどに。
 ——テレサは、この時…島を恋しいと思っている自分に、唐突に気づいたのだった。

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★「ヤマト2」10話まできました。

 

<意志を持ったAI>
 テレザリアムは、お父さんの意志を継いだ人工知能(AI)によって制御されています。これ、イメージとしては「銀河鉄道999」の、メーテルのペンダントに宿るドクター・バン、「宇宙海賊キャプテン・ハーロック」の、アルカディア号のメインコンピューターに宿るトチローの魂、みたいなもんですね。松本零士先生設定風で、いよいよヤマトっぽいでしょ…(w)?



<暦、時系列について>

さらに、テレザートの暦の設定はわざと曖昧にしてます。
地球の西暦2201年に、ズォーダー5世大帝の在位5年目(あの見た目年齢で在位5年……)とゲーニッツが言っている(「2」15話)…けど、そもそも地球歴とテレザート歴とガトランティス歴は全部違うと思う…いわずもがなですが。
 テレサが19でガトランティスのことを知った後、島と会うのはその6年後です。ただ、それはあくまでもガトランティスの暦で、の話。ズオーダー5世大帝、の即位「前」に、テレサとズォーダーの邂逅があった、という設定だからです。そうすると、テレサは島と会った時すでに25歳。どの星の暦で何年、って言うのかは統一できませんよねえ…アニメではむりくり地球の暦がベースですが。だから、あんまり細かいことは考えちゃ駄目です(w)。

 その辺は読む人次第で、どうとでも解釈してくださってOKです。テレサが島より年上だとイヤ、って人もいるだろうし。
 そもそも、「さらば」のテレサ、ゲームのテレサは設定自体「見た目」16歳くらい、なんですが……

「2」のテレサはどう見ても16じゃないよなー。設定が16でも見た目16じゃないです、あれ。もっと老けて見えるし第一言動が16ではありえない。どう考えても彼女の方が精神年齢島より上…。(16つったらサーシャより下じゃん?)気苦労してるから老けて見えるのか?



 で、長いまえがきに書いた通り、諸々の理由からテレサはヤマト乗組員やズォーダーとも対等な知識を持って話すことが出来ます。間違いなく、ヤマトの「女神」たちの中で、一番の才媛でしょう。この声の主は一般人ではあり得ない…島も真田も古代も、多分いくらかはそう感じていたと思われ。だって、いきなり「航路の指定をしろ」と言われて、できる一般人はいませんからね。女王様だったスターシアはある程度、王族として高い教育を受けていたと考えていいかもしれませんが、テレサは王族…ではなさそうですし。


 しかし、声が女だったことから、やはりどうしてもヤマトクルーは「スターシア」のことを考えたはずで。そんで、島くんは「1」で、「俺が好きなのはスターシャさ」と言い放っている事実があるんだよな(w)。
 それを彼が覚えていたかどうかはさておき、スターシアのこともあったから、テレサに対しても「救いの女神」のイメージはどうしてもあった、と思われます。


 で、これ↓です。

<そもそも、あの通信内容だけで、なんでテレサは島に懸想したのか>
 本編を観ている限りでは、テレサ視点での話はほとんど展開しませんから、分かりにくかったですねえ。今見てもわかりにくいです。でも、テレサがどうしていたのか考えつつ「2」を観て行くと案外すんなりわかります。
 ……たった一人でいたにしても、本当は自分を理解してくれる誰かと話がしたい。そう思いながら生きていたテレサ。
 そこへ持って来て、不思議な戦艦ヤマトが出て来る。このヤマト、テレサがジャミングと戦いながら、せっかくあれこれ教えてるのに、最初に伝えたはずの「3ヶ所の障害物(8話)」全部に嵌ってしまう。…ったく、どこまで世話を焼かすんだキミタチは(w)!と。
 紆余曲折しながらも、どうにかそれらをクリアして、ヤマトはやって来ようとしています……ああ、イライラする。テレサとしてはドキドキハラハラでしょう。こんなだから、愛着はいつの間にか形成されてると思います。手を差し伸べ、導きたいと思って当然です。


 そのヤマトの代表が、島、なんですよ。
 その彼に、無邪気な声で「美しい人なんだろうなあ」と言われてしまい、一気になんだかドキドキの種類が変化して行く。それまで、彗星のことを知りたいとか、知らせるとか、そういう話は他人としたことがあっても、「彼女自身」について知りたいなどという人は、まったくいなかったのです。テレサも、義務や使命感に基づいて知らせるべきことはあれど、まさか自分について知りたいと言われるなんて、思いもよらなかったのでしょう。
 どうでしょう、こんな感じでテレサは島に「会いたい」と思うようになって行くわけです。



 一方、島的には、多分最初はミーハーな理由で惚れているんじゃないか、と思われます。新米と同じレベル。多分、彼女に会う直前までそうでしょう。
 それが個人的にどうしても放っておけなくなったのは、一旦テレザリアムから戻って来ちゃって以降だと思います。だから、まだ通信だけの時点では島は「愛してる」とかそんな自覚はないんじゃないかな。
 …つーか、ないだろ?!そー言う段階じゃないだろ!?(w)

 島の気持ちが、「愛」に変わったのは、どのへんのタイミングだったんでしょうか。
 …それは、第二部で描いてみようと思います。

              (第二部へ続く。続くったら続く。)

 

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