Original Story 「DISTANCE」(3)



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 トーキョー・ベイに面した、無人機動艦隊極東基地。そこは防衛軍司令本部のあるメガロポリス・セントラルの対岸、富津岬に位置していた。 
 正確には、富津岬から海底を経て湾内に設置された半海底基地である。

 極東基地艦隊は、防衛軍司令本部直轄の首都上空の警備、またもっとも地球に近い空域に展開する、地球の最終防衛ラインの構築を担っている。過去の侵略戦争から教訓を得、基地の中枢は海中部分に位置するブロックに分散されていた。必要とあらば海中を移動し敵からの攻撃を避けることが出来る、それ自体が巨大な移動要塞なのである。
 保有する直属の艦船は10万トン級大型宇宙戦艦、宇宙巡洋艦、ミサイル駆逐艦など合計50隻。またこの基地は、非常時には太陽系内のすべての無人艦を統括してコントロールする権限と機能をも備えていた。

 通信技術の飛躍的な進歩により、地球の地表から月周回軌道までの距離を0.0001秒で飛ぶタキオンレーザー変調波が完全整備され、現在はそれを利用したハイパーウェブ通信網が地球から月軌道までの空間を網羅している。無人機動艦隊は、この革新的な通信網なくしては実現しなかった。
 艦船に直に乗り組まず、安全な距離からそれらをコントロールするためには、艦内にいて音声で艦を操るのと同等もしくはそれ以上の速度で、コマンドを出せなくては話にならない。通信速度の遅さに起因するタイムラグが、かつての無人艦隊の最大の弱点だった——だが、異星文明のオーバーテクノロジーを総合研究して来た科学技術省、および相原義一らかつてのヤマトクルーらが尽力し、2205年までにこの通信に関する課題をついにクリアしたのだ。
 海底基地のコンバット・ディレクション・センター(CDC)から発信されるコマンドは、ほぼタイムラグなしで月軌道上に常駐する極東基地艦隊旗艦<昇竜しょうりゅう>のメインコンピュータに受信される。<昇竜>は即時、自律航法制御システムAACS<アルゴノーツ>を起動させ、全艦隊を統制し始めるのだ。
 <アルゴノーツ>はそれ自体が高性能のAI(人工知能)であり、必要に応じて管制官からの音声コマンドに加え、自艦周囲と現場周辺の全方位観測によって状況を判断し、独自に機動を変更する。これは例えば、敵の奇襲攻撃を受けた場合や、急激な気流の発生、隕石の接近や宇宙生物との遭遇等のイレギュラーに対し、絶大な威力を発揮するのだ。地上の管制官は、宇宙空間に於いて艦の直面する急激な状況の変化を100%把握することが出来ない。しかし<アルゴノーツ>がそれをカバーする。
 通常は、管制官の音声によるコマンドが海底基地から発信されるのとほぼ同刻に、艦隊は機動を開始する。トーキョー・ベイの海中から, CDCに居ながらにして<昇竜>をはじめ50隻の艦隊を、マイクに向かって指令を出すだけで操艦することが出来るというわけだ。それに加え<アルゴノーツ>による自律航法で、例え管制官からのコマンドが中断されても、各艦船は自らの判断で連携機動を取る能力を有している。 
 そればかりではない。コントロール衛星によるリレー通信を経て、極東基地は太陽系内の300隻余りのすべての艦を、同様の方法で管制することが可能だった。

 各艦を操艦するのは艦隊の5分の1の数にあたる10名の管制官。——しかし実質、極端なことを言えば、熟達した管制官が2名いれば、50隻の艦隊を立派に動かすことが可能なのだ。
 この10名は特殊な任務を兼任していた。太陽系内の7つの内惑星宙域にそれぞれ展開する無人機動艦隊基地のうち、この極東基地に所属する艦には波動砲が搭載されている。最終兵器である波動砲を無人の船に乗せることは当初否定されて来たが、この最終防衛ラインを護る戦艦のうち10隻にだけはその搭載が許可された。この基地に所属する10名のコントローラーが、各担当艦の波動砲発射ライセンスを所有する。彼らは、無人艦による波動砲発射を事実上軍最高指揮官(つまり連邦大統領)から許可された者たちなのだ。
 その管制官たちを統括する総指揮官が、元ヤマト副長・第一次特殊輸送艦隊旗艦ポセイドン艦長、そしてこの極東基地副司令である島大介であった。


 さて。そういったわけで、この基地は軍の機密満載であり、基地への出入りに関するセキュリティの厳重さは他の基地の比ではなかった。
 富津岬の基地直通ステーションに接近することも付近の海上を通過することも、事実上一般市民には許可されていない。湾内には軍直轄の食用魚類の養殖場があるが、養殖水産に従事する軍属の作業員ですら、警戒水域には接近できないのであった。

 対岸に位置するメガロポリスの防衛軍日本基地には無論有人艦の宇宙港やドックがあり、有人艦隊の出撃はそちらから行われる。その防衛軍海底ドックの方は、昔なじみのヤマトの母港でもあった。

 ちなみに古代や相原など、旧ヤマトのメンバーで健在な者は未だ有人艦に乗務している。この無人機動艦隊基地が執拗なほど隠蔽されているのは、万が一の有事の際に有人艦隊の出撃を援護するためでもあった。
 外宇宙からでも観測によって発見できる戦艦のドックや基地は、真っ先に攻撃の対象となる。しかし隠蔽された基地に指揮系統が隠されていて先制攻撃を加えることが出来れば、有人艦の出撃を確実に援護することになる。無人機動艦隊はそれ自体が地球へ接近する脅威に対しての盾であり、さらに有人艦隊の援護をも同時に担うという、重要なポジションにあるのだ。基地への出入りが殊更に厳重チェックされている理由も、そこにあった。
 パスワードによるID確認に加え、身体や細かな荷物の検査はもちろん、網膜・静脈・声紋認証などセキュリティ・チェックの項目は数十に上る。その煩雑さから、大半の管制官は一度基地に入ったら半年ほどは退出しないのが普通だった。島が一月に一度、必ず帰るのは異例の高頻度なのだ。

「副司令は家で可愛い嫁さんが待ってるから」

 面倒なチェックをものともせず、月に一回かならず帰省する島は、そう噂されようが、整備長の徳川太助にニヤつかれようが、まるで意に介さなかった。それは本当のことだったし、冷やかされるのにももう慣れっこだったからだ。




 だが正直な所、平時とはいえ、島の仕事は常に山積していた。
 各内惑星領域の条件に則した防衛ラインの構築、管制官のレベルアップに関するプログラム等、常に更新されるべき項目は尽きない。この無人機動艦隊のベースとなる自律航法システム<アルゴノーツ>開発責任者として、太陽系内に展開する300隻以上の大型戦艦のコントロールを統括する責任が島にはある。他のメンバーはともかく、バーチャル管制のトレーニングにしろ、定時に行われる艦列の組み替えや陣形のトランスフォーメーションにしろ、彼自身がもっとも訓練に時間を割くべき人間であるのは言うまでもない。

 島の参謀役には、艦隊戦を極めた将校、吉崎大悟が配属されていた。彼は、かつて地球連合艦隊を率いた知将・土方竜の副官を務めた経験のある男である。若年ではあるが彼は、土方が存命の折り、そのアドバイスを自ら仰ぎに来たという逸話を持つほどの、用兵術の専門家だった。
 彼はガトランティス戦を辛くも生き延び、その後艦隊用兵学専攻教授として防衛軍大学校で教鞭をとっていたが、無人機動艦隊の編制に際して極東基地の総参謀長として招聘された。島大介は、たった一隻で戦って来た“ヤマト”の航海班出身である。艦隊戦に関しては、はっきり言ってしまえばまるで門外漢だった。参謀としての吉崎の才幹が、艦隊戦を旨とする無人機動艦隊をさらに強力にバックアップすることになったのだ。

 とはいえ、今後克服しなければならない課題はまだ山のようにあった。防衛会議は無人機動艦の総数をさらに増強するよう要請して来ていたし、この年度の下半期にはまたもや、有人艦隊との技較べとも言える、太陽系内合同軍事演習2211が控えている…。


 加えて、常に細かなミッションが防衛軍本部から下る。各内惑星へ接近する隕石の排除、コスモナイト輸送艦の護衛、政府要人の送迎艦の護衛。

 高性能の無人機動艦ではあるが、案外出来そうで出来ないのが、人間を乗せて運ぶことであった。
 無人艦は有人艦艇を改装して造られている。だが、人間が内部にいない、ということを前提にしているので、まず人間工学に基づいた設備が載っていない。つまり、例えば座席などは必要最低限以下しかなく、生活用給排水機構、もちろんトイレなども設備ごと省かれているのである。 
 艦載機を持たない代わりに外壁装甲版は有人艦よりも厚くなっており、外装の自動修復装置が全艦に張り巡らされている。各所に補修用資材が積まれ、内部空間の強度を上げるための隔壁も有人艦のそれよりはるかに多い。そもそもプログラミングされている転進や加速のスピードは乗員に配慮したものではないから、乗って乗れないことはなくとも居住性は最悪だろう。

 



 さて、島は基地の副司令、というポジションにあるが、事実上所持する権限は基地司令と同等のものだ。すべてのミッションは彼の許可を経て実行されるため、島は常にスケジュール管理帳がわりのセクレタリーアンドロイドを連れて歩いているほどだった。
 公には、この基地の総司令官は、防衛軍本部総司令長官、藤堂平九郎が兼任するということになっている。島の権限は基地司令の藤堂とほぼ同等ではあるが、異星人からの侵略があった場合などに総攻撃の指令を出すのは大統領、次いで藤堂であった。

 藤堂はもちろん、島の置かれている状況——異星人のテレサを妻として自宅で生活させていること——を承知している。だからこそ島を副司令官のポジションに置き、いざという時には島に代わって自らが総指揮を執ることが可能なよう取り計らってくれているのだ。だが、逆に島は常に防衛軍司令本部に詰めている藤堂のことを思うからこそ、自分が長期の休暇を取るわけには行かない、と考える。そのために、せめて必ず月に一回は、と半ば強迫観念に囚われて短い休暇を取るのだった。

 

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 ☆ このページ、解説ばっかですね。すんません。

   でも、ここがこのオリストでいっちゃんカッコイイ部分なんだよおおお…(w)

 

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