Original Tales 「碧」第四部(1)

 

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「波動砲発射孔の被害状況は…!」インカムに向かって島は階下の工作班に問いかけた。
「…突入部分ですでに戦闘が始まっています…!工作班、応答なし…」
「誰かいないのかっ!!小出っ、相模っ……返事をしろっ!」真田が、突破口を切り拓いたはずの部下の名を必死に呼んでいる…

 ヤマトの波動砲発射孔は重火器の砲身と同じだ。砲身に亀裂や塞栓が生じれば、発射の際砲身そのものが爆発してしまう。つまり、すでに現在、波動砲が使えなくなっている可能性があるのだ。決戦を控えたこの大事なときに、なんということだ……。その上、敵艦に突き刺さった状態の艦を後退させ離脱する際にも、再び同じ損壊の危険がある。
「太田、離脱の時どうすれば発射孔を温存できる」
「…わかりません、…現場を見ないことには」
 太田が不安そうに言ったと同時に、島は立ち上がった。「見て来る。真田さん、状況を確認してすぐ戻ります!」
「よし、わかった。頼むぞ、島」
 操縦するのは島だ。現場が応答しないのなら致し方ない。島の代わりに太田が操舵席へ滑り込む。
「私も、医務室へ行きます!」
「気をつけろよ、雪」
「はいっ」
 声をかけた真田に会釈し、雪も立ち上がった。衛生兵として、雪の働きは必要だ。島は他のメンバーにさっと手を上げ、雪を伴って第一艦橋を飛び出した。


 波動砲発射孔は酷く傷ついていた。
 銃撃戦の音が突入部から響いて来る。デスラー艦の外壁へ突破口を開いた工作班の2人は、複雑に引き剥がされ黒く焼け焦げた装甲板と白い緩衝材との間で無惨にもこと切れていた。おそらく、突破口を開いた瞬間に敵艦内部からの銃撃を受けたのだろう…

 島は歯を食いしばって短く彼等に敬礼する。
 彼等の遺体が離脱の際艦外へ落ちてしまわないよう、突入部隊の誰かが、遺体を波動砲発射孔内部へ引きずり込んで行ったようだった。だが、もっと中へ運ばなければ…。
 発射孔の底部に、艦首から内部へと走る亀裂は、絶望的だった。そのうち1本が内部シリンダー付近にまで及んでいるのを見つけ、島は天を仰いだ。これではストライカーボルトまで損傷しているかもしれない…
「…畜生っ…」
 修理については門外漢の自分が見ても、一朝一夕に直せる損傷ではないだろうと一目で分かる。決戦前に、波動砲を使えなくしてしまうなんて…!

「真田さん、大きな亀裂が幾つかあります!艦首からバーストセクション方向へ、発射口からシリンダー付近まで1本…、その他にも幾つか…。それから」
 工作班の小出と相模が凶弾に倒れた事を告げる。インカムから真田の歯ぎしりする音が聞こえるようだった。

 銃撃の音がさらに近くなる。戦闘班員が一人、デスラー艦に穿った突破口から転がり込むように戻って来た。
「下がってくださいっ、航海長っ」邪魔だと言わんばかりに彼は島を後ろへ押しやった。ガミラス艦からレーザー弾が数条、飛び込んで来る。
「ここは危険です!我々に任せて戻ってくださいっ」
 戦闘班員の怒声に、島は仕方なく身を低くしつつ波動砲発射孔を戻った。工作班員の亡骸を、一体ずつ引きずりながら…。

<島!聞こえるかっ>真田が呼んでいる。
「はいっ」
<亀裂は内部に向かっているだけか?!発射孔の天井部分は無事なのか>
 天井を見上げる。…くそっ。
 明らかな亀裂を目にして、島は唸った。
「いえ、天井部分にも2本、それほど深くは無さそうですが、亀裂があります!>
 メットのインカムから舌打ちする音が聞こえた。
「亀裂が上部甲板まで達していないかどうか、見てきます!」
<…よし、俺もそっちへ向かおう>


 島は簡易宇宙服のヘルメットを改めて確認しつつ、後方へと走った。上部甲板のバリアが解かれている状態なのは承知している。生命維持装置と移動用噴射装置の付いたバックパックを素早く背負い、ハッチから外へ出た。甲板からは空間騎兵隊が突入を開始しているはずだ。
 前部上甲板に出て、艦首方向をざっと目視する……亀裂は甲板までは及んでいないようだった。——その島の視界に、突然場違いな色の艦内服が飛び込んで来た。
「……雪!?」
 一体、何をやってるんだ!医務室に居たんじゃなかったのか!?



 見れば、前方に完全防備の彼女がおり、その後ろを佐渡が追って行くではないか。空間騎兵隊の後に付いて行き、その場で負傷兵を手当てするつもりなのだろうか。衛生兵として前線に出る…その心がけは殊勝だ。だが、島には彼女が、古代を追って火の中に飛び込んで行こうとしているようにしか見えなかった。
「先生っ、戻ってくださいっ」
 メットの交信機をオンにし、佐渡に呼び掛ける。「雪!戻れ!!君の持ち場は医務室だろう!!」
 二人とも,聞こえないのか!?

 ——その時。

 ガミラスの艦載機が背後からヤマトの側面を上昇してきた。主砲の影からその機影に気付いた島は、前方の二人を凝視した。艦載機は迫り上がり、艦首の機銃で甲板上を掃射しつつ迫って来る。前方の銃撃戦に気を取られ、二人は敵艦載機の接近に気付いていない……
 島は息を飲んで二人の方へ一直線に駆け出した。
「伏せろ……雪!!」
 届いた島の声に背後を振り返り、ガミラス戦闘機の機銃掃射の着弾を目にした二人の表情が強張った。佐渡がとっさに雪を引き倒し、間一髪難を逃れる。
「……!!」
 雪たちと、島の距離はほんの5メートルほどだった……一直線に雪と佐渡のいる所へ走ろうとしていた島は、機銃掃射を受けて吹き飛んだデッキの装甲板の破片を浴びた。
<…島くんっ!?>
 移動用ノズルと生命維持装置が詰まったバックパックの、右肩のストラップが千切れて飛んだ。痛いとか、熱いとか…思うヒマはなかった。
「うああっ……」

 <島くんっーーー…!!>
 雪の絶叫だけが、尾を引いて耳に響き続け——
 ……視界がまっ白になる。網膜が閃光に灼かれたのか、爆風で脳がダメージを受けたか?
 冷静に自身の身体を点検しようとする意識とは裏腹に、島の身体は甲板の破片と共に、デッキの外へと吹き飛ばされていた。

 

 

 



(これが…地球……島さんの故郷)
 
 テレサの眼前に、初めて見る青い惑星があった。

 テレザリアムからの距離は、約5万宇宙キロ…だが、周囲には大小様々な瓦礫が漂っている。そしてそのどれもが、漂うというにはあまりに早い速度でテレザリアムにぶつかって来るのだった。
<…これは、地球の衛星の欠片です>
「…酷いことを…」
 硝子質の鉱石をふんだんに含んだ月の表面は、かつては太陽の光を優しく反射し大地を仄明るく照らしていたのだろう。だが、全面が砲火に灼かれ、削られて黒々とした石の塊に成り果てた地球の衛星は、今や光を失った。
 月はガトランティスの砲撃に灼かれたのだ。それは見るも無惨な姿だった。逆らえばこうなる…それは地球への見せしめなのである…。

 テレサはディスプレイ・スクリーンの角度を手早く変えつつ周囲の探索を始めた。
 彗星帝国は……?
 デスラーの艦隊は……、そして、ヤマトは…どこに?



 不吉な予感に、動悸がした。
 見当たらない。
 ヤマトも、デスラーの艦隊も、そして彗星帝国も…周囲10宇宙キロ半径内には何も発見できなかった。
<月の後ろ側にガミラス艦隊旗艦を発見。……しかし、一隻です>

 どういうこと…!?
 急行したその空間には、遠目にガミラス艦隊旗艦が一隻、瓦礫とともに横たわっているだけだった——
「…何が起きたの……?!」
 デスラー艦の横腹には、風穴のような大きな穴が穿たれている。紫煙が時折吹き出し、いまだ小規模の誘爆が続いているようだ。
 
 デスラーの艦は、打ち捨てられたかのように見える。レーダーで生命反応を探査したが、艦内はすでに無人のようだった。乗組員は別の船に移乗し、この場をとうに離れたのだろう。周囲に散乱する瓦礫から、ここでおそらく熾烈な戦闘が行われたであろうことが伺われる。ガミラスの艦隊は、間違いなく背後からヤマトを急襲し……戦いが始まり、…そして終ったのだ。

 だが、数十隻のガミラス艦隊もヤマトも、付近のどこにも見当たらない。…彼等を追ってきたはいいいが、体力が弱っているためにPKが足りず、思ったより時間がかかってしまったのだろう。

(ヤマトは……ヤマトはどこに…?!)

 付近の空間を虱潰しに探査していたAIのレーダーが、不協和音を上げた。
「どうしたの」
<……発見しました>
「?何を…」 
 次の瞬間、テレサは息を飲んだ。

 四散する瓦礫に混じって、またもや小さな人間の身体が漂流していた……だが、それは。




 自身の身体のことなど、もうどうでもよかった。

 サイコキネシスを使い、彼の周囲に綿密なバリアを張る……そうしてテレサは島をテレザリアムへ運び込んだ。

 

「…し…島さん……」
 信じ難い光景に、全身が震えた。
(そんな……)
 AIが島の身体をテレサの寝台へ運ぶ。ストレッチャーのようなものはないが、テレサのわずかなPKを増幅し、物体を宙に浮かべて運ぶことが出来るのである。
 島はかろうじてヘルメットを被っていた……奇跡的にまだ息がある。だが、その宇宙服の前面は高温に煽られ、白く光沢のあるスーツは溶けて鈍い灰色に変色していた。金属片が彼の上体に無数に刺さり、その一つは宇宙服を貫いて大きく内部へ貫通している。だが、それが抜けなかったおかげで内部の酸素が流出せずに済んでいたようだ。
「…て…手当てを」 
 身体が、手が、両脚が震えた。島の身体に手をかざし、サイコキネシスを発動させようとするが、それは無駄だった。

(…ああ…力が…力が足りない……)
 気づくと、自分自身も目眩がするほど疲労困憊していた。自身もまだ回復し切ってはいないのに、テレポーテーションを繰り返したためテレサのPKは枯渇していたのだ。
 やっとのことで自分の身体を奮い立たせ、AIが開始した蘇生治療を手助けする……
 ヘルメットを外し、その蒼白な顔を一目見た途端、涙が溢れた。

 

(……どうして……どうして、あなたが)
<緊急に蘇生治療を開始します。心拍微弱…呼吸数が落ちて来ています……再生用細胞組織、輸液とも適合検査開始…>



 茫然とするテレサの傍らへ、蘇生用の治療装置が移動して来た。いわゆるアンドロイドで、人形(ひとがた)ではなく立方体に近いものだったが、それは高性能の様々な医療システムを搭載したドクターユニットなのだ。永いときを独りで過ごして来たテレサは、滅多に体調を崩すことなどなかったが、このユニットが宮殿に備わっていたおかげでたとえたった独りで致命的な傷を負っても、たとえ意識をなくしても、命を永らえることが出来たのである……

 しかし、問題は島が異星人だということだった。果たして、テレザートの医学が通用するのだろうか……
 宇宙服の下から現れた彼の上体は白く焼け焦げ、広範囲に第3度の火傷を負っていた。破片を取り除いた後に見えた大きな傷痕に、テレサは身震いする。

 これで、どうやって…助かるというの……
 震える指で、島の手を取った。……まだ温かいが、その手は強張っていた。次第に冷たくなって行くように感じるのは、気のせいだろうか……?!



 ……いや……お願い…。行かないで…!!



 あまりにも酷く傷ついた島の身体には、縋り付くことは出来なかった。AIの施す治療を傍らで見守りながら、テレサは声を上げて泣いた。

 

 

             (宇宙戦艦ヤマト2  23話あたり)

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 ★ 「地球時間15時30分…、地球は彗星帝国ガトランティスの、降伏勧告を……受諾!」

 相原ちゃんの、このセリフ。戦慄しませんでした?降伏するようにという彗星帝国からの勧告は、先立つこと20ン時間前に出されていて、地球はついにギリギリのところでこれを飲んだ、と、そういうシーンでした。月まで見せしめに焼かれちゃってね…。

 さて、ヤマト2。
 この後半部分はずーっとバトルの連続で、「ウソだろ〜〜★」っていうヤマトの丈夫さ加減にだんだん慣れて来る感じになってきます(w)。
 砲撃戦の合間にもバンバン治ってる主砲たち(爆)、いくらミサイルを受けても破れない装甲。スゴスギです…(爆)。ま、そうじゃないと、ストーリー自体もそこで終っちゃうんだからしょうがないんだけど。ERIなんか、ゲームでそれを痛感しましたからね。ゲームだとすぐ被弾して、真田さんに「船の損傷が90%を越えました」って言われて、あっちゅーまに轟沈しちゃうんですよ。…一隻じゃ勝てないよ…つか、ゼッテームリだよ、一隻じゃ(w)。
 ま、あんましそこんとこ考えちゃ駄目です。ふふふ。


<島が甲板に出てたわけ>

 で、デスラー艦へ突入したはいいんだけど、島が。雪、よけーなことをしよってからに〜〜。でね、本編原作でも、雪に「危ない!」って言う直前、島はこっちに背を向けて、なんか下を見てるんですよ…。あれが多分、甲板に亀裂が来てないかどうか調べてたんだ、ということにしてみたぞ。

<蘇生装置>
 あると思います。それがテレサの手当てもしたし、島の手当てもした。うん、そのはずです(w)。
 IPS細胞(人工多能性幹細胞)みたいな、再生用細胞膜、なんて医療品があって、それはそのうち溶け込んで皮膚になるという、大変便利な代物らしい。
 本編に出て来るテレザリアム内部は、かなり整然としています。通信機らしいものはあるけど、生活用の什器もほとんど見当らない…。ベッド、サイドテーブル、水差し…があるだけのテレサの寝室。アンドロイドもいない。サイドテーブルみたいなのがそうなのか?(w)だけど、色々と便利なオーバーテクノロジーが満載だったのでしょう。メカっぽいメカなんて、後進的なんですよ(w)。

 で、島の負った怪我ってどんな感じだったんでしょーか。
 なんか、本編だとただ頭打って寝てる、みたいな印象だったじゃないですか。服も奇麗だったし。けど、輸血しなきゃならなかったんだよね……(あの当時のアニメの表現って、輸血で助ける=命がけで守る、って短絡なのが多かった。だから安直にああいう絵面になったんだと思うけどさ)
 原作の、島の被弾の仕方見てると、上体前面は爆発の煽りを受けて火傷してると思われるし、火傷のせいで背負ってたバックパックのストラップが焼けるとは思えないので砕け散った甲板の破片を浴びてなんか刺さった…、ってことにしています。あんまり医療に詳しいわけじゃないけど、広い面積で第3度火傷を負うとショック死しちゃうらしい…治療も、皮下から剥がして皮膚移植だろうと思われ。だったら、輸血(輸液でいい)がじゃんじゃん必要だとしても不思議じゃないかな、と。

 余談ですが。2009年現在、あんまり重い装甲の防護服を着ていると、爆風を受けた時に脳が外傷性挫傷(TBI)を起こして少ししてから死亡するケースが多い、てんで、米軍中心に軽い防護服の開発が進んでるそうです。     
 ヤマトクルーの防護服はかなり軽装備に見えるけど、2100.年代には軽量防護スーツが当たり前なんだと考えりゃ、まあおかしくはないでしょう。


 第4部では、デスラー戦から彗星帝国との決戦に向かいます。
 ……けど、テレサ視点だからなあ…
 ヤマトの筋的には何が起きてるのかさっぱりわかり辛い、というのが難点ですな。



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