Original Tales 「碧」第四部(6)


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「ええっ…、いけない!!」
 古代は目を見開き、声を上げた。
「あなたはこれまで充分過ぎるほどの好意を示してくれました、もうこれ以上は…あなたの命が…!!」



 テレサは古代を真っ直ぐに見つめた。心なしか、その口元に優しい笑みをたたえ…
「私は…もう、死ぬことはありません。……島さんの身体の中に私の血が流れているのですもの…」
「そんな……」
 古代の、自分を思い遣る優しい気持ちが、緑風のようにテレサの心を撫でて行く。
「…あなた方が生きて還ることが…地球の未来に繋がるのです。異星人の私に救われたとなれば…ヤマトはきっと…なじられるかもしれませんね。それでも」
 そう言いながら、テレサは古代、雪…そして腕に抱いた島を見下ろした……
「どうか、島さんを連れて…地球へ…還ってください。あなた方とこの船だけでは、あの母艦に立ち向かうことは…不可能です」

 お分かりでしょう…?もう、この方法しか…ないことが。

 それが…私の役目だということが。

 人は…一人では世界を変えることは出来ません。
 でも、志を同じくする愛すべき人々が…優しい心を一つにし…手を携えるならば…必ず世界は…変わるのです……


「あなた方の役目は、生きて、還ること…この闘いを、次の世代の平和のために…語り継ぐこと。……勝って還ることよりも、負けて還ることの方が…勇気がいることなのですよ……」

 それに…古代さん?もしも私が島さんをあなた方に託さなければ、あなたも雪さんも… 無駄に命を散らすおつもりでしょう。…そんなことは、島さんも望んではいないのです……


 
「テレサ…!!」
 狼狽える古代から視線をそらし、テレサは目覚めぬままの島を、愛し気に見下ろした。

 


〈古代さん…私は今、幸せなのです。私は…ただの女です……平和の女神でもなければ、愛の象徴でもない。私が守りたいのは…この人、唯一人。大好きな…島さん。そして、島さんの……大切な…故郷、大切な…家族…。そして私は永遠に、島さんと共に…そこに生き続けるのですから……〉


 テレサは、島の身体に腕を回し、そっと抱きしめた。温もりを確かめるように、頬を合わせ…。次いで、ゆっくりとその身体を床に横たえた。
 蒼いドレスが、こぼれる金糸を掬い上げ…ふわりと立ち上がる…



 ……さようなら、古代さん、雪さん。……島さんを…お願いします…



「テレサ…っ!!」
 茫然と彼女を見守っていた古代と雪は、唐突にテレサの姿が滲んで行くのに気づき、慌てて傍らに駆け寄った…だが、すでにその身体は亜空間に溶け込み…実像ではなくなっていた。
「……島…!」
 古代は横たえられた島の上半身を抱き上げた。島が、無事でいてくれた…もちろんそのことでも古代の胸はいっぱいだったが、しかし、テレサが……。

 


 テレサだった仄かな光は、第一艦橋に揺らぐ小さな空間を残し、完全に消えていた。その代わり。
 ——ガトランティス母艦の至近距離に、その光が姿を現した。

 第一艦橋からその様子を悲痛な面持ちで見守っていた古代と雪は、その眩い光の中にはっきりと見た……テレサがふ…とこちらを振り向き、にっこりと微笑んだのを。



 ——やおら反転退避しようとする巨大な魔物。
 だがしかし…小さな光だった彼女は、魔物の全身を、その輝く両腕を広げ抱き竦めた——

 

 

 




 ズォーダー。
 宇宙の法は私だと…
 私がこの宇宙の秩序だと、そう言っていましたね。
 …哀しい人。
 あなたの命の灯が宇宙へ消えるのも…私は見届けましょう…         

 あなたの死の苦しみも…私のこの命で購いましょう。



 本当は…
 あなたとさえ手を携えて
 哀しみや苦痛のない…平和な世界を…築きたかった。
 人は…ひとりでは、世界を変えられない。あなたも…そしてこの私とて、同じことです。
 
 いつか、そのことを…宇宙のすべての人々が理解してくださる日がくるように…


 私はいつまでも、祈っています……

 

 



 ガトランティスの巨大戦艦が、その中央付近で大きく膨らみ、

 目の眩むような光芒に包まれ、消滅して行った——


         

  ———島さん……

 



 音のない宇宙空間に、溜め息のような…吐息のような、美しい声が木霊した。


 
  



「……?」
「如何致しました?総統」
 地球からマゼラン星雲方面へ向かい、艦隊を率いて新たな旅路についていたデスラーは、空耳にしては随分美しい声を聞いたように思い、ふと艦橋の外に広がる星の海を見渡す。
「……いや。なんでもない」タランの問いに、首を振った。
 観測員が、データを持ってかしこまる…「総統!監視衛星より報告です」

 ヤマトが、白色彗星帝国を、撃ち破りました——!

「ほう」
 タランも目を丸くした。
「なんと、ヤマトが…?! 誤報ではあるまいな?」
「いえ、正確には、テレザートのテレサが彼らの味方に付き、反物質エネルギーを持って戦闘に介入した模様です。ガトランティス大帝の戦闘母艦はテレサの反物質エネルギーに接触し、消し飛んだとのことです…」
「……なんと!?」
 その報告には、デスラーもしばし困惑し、思案せずにはおれなかった。
   
 なぜだ…?
 一体なぜ、テレサが…?

 白色彗星帝国の大帝ズオーダーその人が、ただ一人恐れていたのが「テレザートのテレサ」だったということを、彼等は知っていた。だが、デスラーにもタランにも、なぜ彼女がヤマトに肩入れし、地球を救う心算になったのか…幾ら考えても理解できないのだった。

「ふふ……。沖田、そして古代よ。私は…ヤマトを葬り去らなかったことを、誇りに思う。お前たちは、この宇宙に…選ばれた者なのだ。私も…この命続く限り、生かされたことの意味を…模索し続けよう」

 ヤマトよ。生きてまた、いつの日か…相見えよう。

 デスラーは独り言ち、ふふふ…と笑った。
(ヤマトは…またもや“女神”に愛されたのだ)
 先ほど耳にした、美しい声は…テレザートのテレサだったのかもしれない。敵の中枢と己の持てる反物質を接触させたとなれば、彼女の命ももしかしたら…潰えたのかもしれぬ。
 だとしたら…それはなんと烈しく、強い愛なのだろうか。

「タラン。今一度…我がガミラス本星へ還ることとしよう。ガミラシウム採掘に加え…会いたい人も…いるからな」
「はっ。直ちに」
 デスラー艦隊はその故郷、母なるガミラスに向かい、漆黒の空を駆けて行った。

 




 ——碧の宮殿は、地球から遠く離れた宇宙空間に漂っていた。

 あの爆発の衝撃から、主を守り切ることは出来なかった。
 凄まじい高熱に溶解した宮殿の外殻には、すでにかつての面影はない。 
 …一部に残った電子回路が、微かに放電し最期の火花を上げる。

 ——AIは眠りについた。

 だが、…テレサの記憶はその中に永遠に生き続ける——。



 ……なんて素敵な、リンゴのお城……!
 そう言って、嬉しそうにやって来た亜麻色の髪の美しい少女……。
 テレサ、私たちの……愛しい娘。
 
 共にいることは出来なくとも…私たちはあなたを、
 永遠に愛し続けます……




 西暦2202年——
 戦いは終わりを告げた。そしてヤマトは再び…新たなる旅に出る。

 




                                       <了>
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★ テレサ視点での、新解釈満載のヤマト「2」いかがでしたか?
後半、ずーっとテレサ視点で辛い?
もっとオヤジを出せ(w)?

 本当は、ズオーダーが「テレサ、生きていたのか!」って狼狽える場面とか書きたかったんだけど、テレサ視点で書いていたら、『ズオーダーにさえも、憎しみを持たない女神』的な心境になってきちゃってねえ。死ぬと分かっている…、それがしかも、愛する人を救うためだと分かってのこと…というシチュエーションは、人を冷静にするものなのかもな、なんてちょっと思った。
 さて、ヤマト2。非常に濃い脚本です。「さらば」のリメイクじゃなくて、こっちのほうがずっとすごい。のほほんとただ観ていた中学生の頃は、一つ一つのエピソードの必然性をまるで感じなくて、「さらば」をどう変えて古代たちを生き延びさせるんだろう、ってことしか考えてなかったような気がします。



<島さん連れて愛の逃避行…ならず!>
 笑……。
 いや、テレサ的にはそういう考えもなかったわけではないと。
でも、出来なかったんですねえ。その気持ちの変遷は、安直ですがサイコメトリー(精神感応)能力で島の意識からその家族のことを汲み取った、という描き方でフォローしました。
 島連れて、逃げちゃえばよかったのにねえ…。駄目か。

<戦争美化か?>
 ……そもそも、ヤマトですからね。戦艦大和を題材にする時点で、その戦いに格好良さを求めてるわけですよ。美化かと言われたら違う、とは言いきれんです。第一、「さらば」ではバンバン味方が死んで、それが涙を誘い最後には命を武器に特攻、で終るんだからさ、神風特攻隊おっけー!英霊万歳!っていう心境で見ないとしらけるさ。
 ただ。
 テレサ視点でずっと追っているので多分伝わってるかと思うんですが、彼女から見るとどっちも命の大切さを無視してる、愚かな行為。古代たちのしたことも、ある意味虐殺であって決して正しい事ではない。何が何でも殺戮を終らせたかった彼女は、ついに身を投げ出した。ただし、それはあくまでも島のためだけだったんだけどね。そしてその行為も、島にとってはいい事だったのかどうなんだか、分からず仕舞いです……(泣)。



<〆はデスラー総統に。>
 彗星帝国との戦い、〆て下さいましたのはデスラー総統です。

 はて…。
 恨みは消えた、なんて言って、とっとと撤退しちゃった総統ですが、デスラーにとってズオーダーとはどういう男だったんでしょうか。盟友?でも部下の策略に丸め込まれる不甲斐ない一面もあったのでは。最後にデスラー艦を返してくれたけど、それってほんとに「友情」だったんだろうか。
 個人としてのズォーダーと、大帝としての彼とはまた違うのかもしれないけど…。
 そしてその上、古代を見逃したあたりの心境って…。
 雪が飛び出したから?
 サーシャそっくりな雪を見て、固まってましたよね。このシーンの本編の作画が絶妙です。
 私的には、デスラーは、恨みがどうこうというより、ヤマトの運の良さとか奇妙な強さを試してみたくなったのかもしれないなーなどと思いました。彗星帝国に恨みはない。彗星の方が絶対強いだろうと思うけど、ヤマトが勝ったら面白いだろう、とかその程度に思って、攻略のヒントを出してみた。まさか一隻でやり遂げるとは。…びっくりしただろうな(w)。
 でも、そうであれば自分たちがヤマトに破れた訳も分かる。何か、ヤマトはどっかが違うのだ、って思ったんだな。女神キラーだし(w)。
 まあ、ただテレサ視点ではデスラーを描き切れませんでした。テレサとデスラーって、どうしても接点ないしな…。でも、テレサはデスラーの声は聞いて知っている。ゴーランドとの通信を傍受してたからね。
 ホントは彗星から総統を連れて脱出する辺りの、タランの格好良さとかも書きたかったけど(w)うまいこと入れられませんでした。悪しからず。


 しかしさあ、デスラーの言葉を聞いてもいない古代。総統、古代との友情って……なんか勘違いしてね?自己満足の賜物ですかねえ?どうもよくわからん。しかも次に、「新た」で、古代が助けに来てくれたと思ってる様子の総統ですが、待てよ,あれ…古代は兄さんとスターシアを助けに来たんだよ?総統を、じゃないよ?(w)なんか彼がズレまくってるような気がするのは私だけでしょーか…。
 それから…
 実は私自分が案外デスラー贔屓だったんだとわかったぞ(w)。あの人のキザなセリフ考えるの、楽しくって。なんかカブキ入ってるよね(w)。


<最後の字幕の意味>
 「2」の最終話、最後になんか字幕が出ますよね。
 人は一人では生きて行けない、誰かは繋がる人がいる。それが愛なのだ。でも時に人は繋がり方を見失う。愛がない、それほど哀しい事はない。
…みたいな。
 あれ、ずっとナゾだった(w)。最後を締めくくるほど名言とも思えないし……何が言いたいんだろう…???って今でもわかんないっす…。
 しかし、自分でこのオリスト書いてみてなんだか解ったような気がしてる私(w)。ジュリーの詩はテレサに捧げる詩で、このナゾの字幕はテレサを喪った島の心境なのか?と考えると滂沱の涙………(そっちへ考えるんかヲレ)。でも、ズオーダーへのレクイエム、にも思えて来たかも。
なんなんだろう?…やっぱ誰か教えてくで。


<テレザリアムはどうなったのか…?>
 コレですよ、コレ。
 テレサは反物質を呼び出す時、テレザリアムを出ないとならない。制御されちゃうから(これは自分ち設定)。
 で、最初の自爆のときはテレサ自身がシステムダウンさせてテレザリアムを置いて行ったけど、サブシステムが起動してテレサを守った。じゃ、帝国母艦と対峙したときは?間に合わなかったのか、それとも守りきれずに消滅したのか。
 このスピンオフでは、とりあえず残骸のようになったけど、テレザリアムが残っている状態です。テレサパパ、ママの意志を継いだAIは、眠りにつきますが、…実はテレサを守ってその胎内に眠らせているんです…。それが、オリストの「奇跡」に繋がってます。
 何か、最初の自爆の時に助かってた訳を考えると…テレサ、どっかで生きてるんじゃないかと思えますよね。でも、そうだとしたら…「完結編」での島の死はテレサにとって酷い仕打ちになっちゃうよなあ。地球は、島のついでに救われた……だけなんですから。

 その島とテレサの恋愛模様…もっと描き込みたいと思わないではなかったです。最後にヤマトの第一艦橋から消える時、テレサは島を抱きしめてから行きますが、そういう無言の愛情表現しかできなかった。私も書けなかったですね…。「さらば」のテレサは古代たちに味方する理由が分からなかったけど(あなたたちの愛と勇気を見せて頂きました、って…?なにその理由?お釈迦様か…?)「2」のテレサの動機は違う。たった一人の男のために、命を投げ出したわけですから。その方がずっと理解できる。
 ただ、こうしてみると、ジュリーの「ヤマトより愛を込めて」って歌は、テレサと島のために書かれたみたいな詩だ。いや、勘違いじゃないく…マジでそう思うんですけど…。だって、命を賭けて、身体を投げ出して愛する人を守ったのは、テレサなんだもん、…ねえ?
 テレサ、…ほんとに、健気で美しい人でした。大好きです。

 なので、救命物語へ発展しても、それは勘弁してください…無理ないよねっ!?やってもいいよねっ!?
 



 ともあれ、長い事お付き合い頂きありがとうございました。


 島とテレサのお話は書きたくてまた書くだろうけど、ここらで一旦終了です。          

 <ERI>

 

 

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