Original Tales 「碧」第四部(4)

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 ——大介兄ちゃん!
 頼むよ……。地球を救えるのは…ヤマトだけなんだ!!               
 次郎、任せておけ。
 そう言いたかったが、おかしなことに手足の自由がきかなかった。


 地球を救って、と泣きじゃくる次郎が…ぼんやりと消えて行ってしまう…
「……じ…ろう…」
 待てよ、と声をかける…
 だが、弟の小さな姿は唐突に消えてしまった。
 そのかわり、目の前にぼう…と黒っぽい物が現れる……誰かの背中だ。

 ……親父…?
 ゆっくりと振り向いたのは父だった。

 ——大丈夫か、大介…
 親父。
 珍しいこともあるもんだ、会いに来てくれるなんて。
 父は微笑みながら何か言っていた。
“お前の信じる途を行け”
 ああ、そうだ……それ、親父の口癖だよな……。
 背広とネクタイの上に満足げに頷いた父の顔が、朧げな桃色に変わる………
「……?あさ…ん」

 大介、あなた……ヤマトはどうしたの?
 行ってきます、も言わないで出掛けたくせに。
 ヤマトはどこなの……?

え…?と大介は呟いた。
ヤマトは……俺はヤマトにいるんだぜ。

駄目よ、と母は両手を腰に当てた。
あなたは…一体どこにいるの…?
ヤマトを…どこに置いて来てしまったの……?

ヤマト…を…?
どこに……?



 周囲を見回す。そこは、第一艦橋ではなかった。

 見慣れた艦内ではなく、青い……不思議な空間……


 ここは…一体。
 ヤマトはどこだ…!?
 帰らなければ………!!

 




 

「……ヤマ…ト…は」
苦しげに、島が呻いた。

「島さん……!」
 島の右手が、何かを握るような仕草をする。思わずテレサはその手を握りしめた。もう二晩…意識は戻らない。寝台に横たわる島の傍らに彼女もずっと付き添っていた。
 再び眠りについてしまった島の身体に、テレサは息を吐いてもたれかかった。 

 島の心拍は早く、体温も高いままだ。分け与えている血液の量は、限界に近かった。大量の失血のため、島の体は心臓を酷使している……少ない血液で全身に酸素を回そうとしているのだ。赤血球の代わりになる成分がテレサの血液には少ないのか、昨晩から続けている部分輸血はなかなか奏功しなかった。

「島さん……だめなの…?まだ…足りないの…?」



 寒い……。もう私の身体にはわずかしか残っていない……
 でも、島さん…
 すべてあげるわ……あなたに。
 …あなたの瞳が、もう一度開かれるなら……。



 高熱に苦しむ島とは対照的に、テレサの体温は低下して来ていた。AI が地球に降下したヤマトと彗星帝国の動向をスクリーンに時折投影してくれていたが、テレサのPKが微弱なためにその映像は途切れがちであった。

 彗星帝国が地球へ降りた後……しばらくの間、不気味な静寂が訪れた。

(……地球人は、降伏してしまったのかしら…)
 そう思い、テレサは身震いした…
 ヴァルキュリアもそうだった。全面降伏。しかし…軌道を強制的に変更させられた惑星は、結果的に天変地異に見舞われ、その星の命は失われた。 
 …その民は分断された…ある者は奴隷として連行され、ある者は殺害され。……彼等は降伏して、その根底から蹂躙されたのだ。

(島さんの故郷で戦闘が起きるのは耐えがたい苦痛だわ……。けれど、…ヴァルキュリアのように踏みにじられるのは…もっと…悲惨)

 “力を持たぬ星は私と出会い、滅ぼされることにむしろ喜びを見いだすことだろう!”
 そう言い放った傲岸不遜な帝国大帝、ズォーダー。彼等が降伏した星を良心的に扱うことはあり得ない……


 島が、また身じろぎする。
「…島さん…?何…?何て言ったの…?」
 …私の血が通い始めたの……?


 テレサは自分の左腕から伸びる輸液の管に気をつけながら、寝台に横たわる島の身体にそっと寄り添った。

 頬に触れる。……熱い…。

 苦しそうに眉間に皺を寄せ、時折口元を歪め、うわ言を繰り返す…その島の表情を見ていると切なくて、テレサは胸が潰れそうだった。
 島の頬をそっと右手で包み込む。冷たい自分の掌が、ひんやりと心地いいのだろう。彼の表情がふっと和らぐ。
(……愛しているわ…島さん……)そのまま、そっと唇を重ねた。


 ——島の唇は熱かった。


 うう……、とテレサは咽び泣いた…無傷だった島の頬に、思わず縋り付く。
 彼がこんな傷を負ったことも。
 彼の故郷が危機に瀕していることも。
 苦しむ彼に…何もしてあげられないことも…、何もかもが辛く、堪え難い…。

 AIが投影するディスプレイ・スクリーンに、変化が起こった。
「……彗星帝国が…!」
 見紛うことなき都市帝国の威容…
 それが、地球の大気圏を猛然と離脱して来る。うなされる島の手を握りしめたまま、テレサは悲痛な面持ちでスクリーンを見上げた。
(ああ、ヤマトが追って来ている……!)
 そして……見守る中、瞬く間に戦闘が始まったのだ。

 ——敵うはずがない……!!
 たった一隻では、敵うはずがないわ……!!

 


 

 

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★ 大気圏を離脱した彗星帝国を追って、ヤマトは上昇中。その頃の島とテレサ。

この辺が、二人が一番長く一緒に居た時間なんですが、私の書く文章で行くと島、絵面ではかなりスプラッタな状況に(……泣)。なので、絵は手だけ(w)です。で、ヤマトの艦内服、そのままでしたよね。あり得ないから。…だから、絵で描くと何か白いアッパッパ(……病院でよく見る手術着みたいの・w)着てる、ってことになってます。

 ……テレサをまた泣かしてしまった……許してっ……。


 

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