Original Tales 「碧」第四部(2)

 

         (1)(2)(3)(4)(5)(6

    *********************************

 

 島さん……

 サイコキネシスが充分であれば…あなたを死の淵から救い出すことが出来るのに…!!


 彼を失うかもしれないという恐怖から、呼吸が速くなる…バラスでの最期の爆撃で死んだ、母の遺体の顔を思い出した。爆撃の煤で汚れた土気色の母の顔と、目の前の島の顔とが重なる。テレサは島の横たわる寝台の縁に手をかけ、突っ伏した。

 きっと…きっとまた、会えると思っていたけれど…
 
 私の力、…テレザートを死の星に変え、そして太陽に変えることも出来た私…。でも、私は……無力なのです…
 滅びかけているあなたの身体に、たった一つの命の灯をともすことさえ…今の私には…

<再生用細胞組織は適合しました。ただ、体液の補充が追いつきません。この方に適合する輸液は…あなたのためにほぼ使用してしまったのです。しばらく時間が経たないと補充が…できません>
 第3度の火傷を負った上半身の組織は皮下まで切除され、完全に再生用細胞膜で覆われた。地球人の島の身体からは、怖じ気づくほど大量の赤い体液が流失したが、テレサは片時もその傍を離れなかった。

(赤い……。あなたの身体には、赤い…血が流れているのね…)
 島が身につけていた赤い花の飾り。
 古代がくれた、赤い花束……。
 ——島の身体から流れ出る赤い液体は、あの花々の優しい囁きを思い起こさせた。

 

 ”大丈夫……泣かないで…。…テレサ、泣かないで……”

 

 再生用細胞膜を押さえるバンテージは数日すれば地球人の身体にも融合し、新たな皮膚となるはずである。人工呼吸器でサポートしていた島の自発呼吸が、次第に安定して来た。右の大胸筋に食い込んでいた鋼鈑の欠片の痕も、奇麗に塞がれている。
「輸液……足りないのなら、私の身体から直接取って頂戴」
<…それはできません>
 テレサは手袋を外した島の手を、そっと取って両手で握りしめ、瞼を閉じた。……あなたが助かるのなら……私は喜んで、すべてを捧げるわ…

 AIは無機質な音声でテレサに答える。
<…あなたをお守りするのが私の役目です。輸液はできません>
「でもそれでは…島さんが」
<……できません>

 AIと押し問答をしても無駄だった。それなら自分でやるしかない。
<…ご主人様>


 蒼く、温かな…テレザリアムの内部。太陽光を採取し照明とするその部屋の内部には、穏やかな光が常に降り注いでいる。床や壁は弾力性のある自動再生金属で出来ており…それらは常に、テレサを護って来た——彼女を脅かすもの、彼女を迫害するすべてのものから。
 恐るべき規模の高速中性子の嵐と発光ガス体の猛襲からも、テレザリアムは彼女を守った……だが、彼女自身が望み、その身体を誰かのために削ることを阻止するようには、その宮殿の防御機能は出来ていなかった。


 ドクターユニットを引き寄せ、テレサは自分の左腕をユニットに通す。
 彼は異星人だけれど、私の体液成分を分離して部分的に分け与えることは理論上可能だわ。
<………ご主人様>
 再びAIが諌めようとする。あなたの身体が危険です……
 
(ありがとう。…心配してくれるのね……)


 でも、お願い、見逃して。……私はどうしても、この人を助けたいの……



 テレサはドクターユニットを介して自分の左腕の静脈から島のそれへと繋がる透明の管を見下ろした。
 …これで……大丈夫……。
 もう一度、島の左手をそっと両手で握る。
(……どうか…目を覚まして……)
 熱い涙が頬を伝う。涙はテレサの手を伝い、頬に当てられた島の掌へと流れた。

「…島さん…もう一度目を開いて私を見て……」
 テレサは島の頬をそっと撫で、閉じた瞼を見つめた。



 島さん…私、生きているのよ……
 お願い……甦って……。


 
 古代に託した自分の言葉を、やるせなく思い返す……


“愛し合うということは、一緒にいるということばかりではないはずです…”


 テレサは頭を振った。
 涙が頬からこぼれ落ちる…
 そんなのはただの強がりです…。本当は、…本当はずっと一緒にいたかった……
 あなたを失いかけて初めて……気がつきました……。


「……愛しています……愛しています、島さん…!」
 答えない唇、開かない瞳…
 こんなに近くにいるのに、私は…あなたの命をつなぎ止めることさえも出来ないのだろうか…

 あなたは…私の生命——
 お願い、甦って……島さん……!

 

 

 

 「外部補修に、3時間かかる。…だが、波動砲は使用できない。衝突のショックでストライカーボルトがやられた。とても応急処置では対応しきれん」
「主砲も同じです。……1番砲塔、3番砲塔が使用不能です」
「使えるのは……魚雷だけか…」

  デスラーの不可解な撤退の後——。
 奇跡的に生き延びたクルーたちは、第一艦橋で決戦に向け作戦を練っていた。
 …作戦、と呼べるのかどうか…それは甚だ疑わしかったが——。

 魚雷だけで、あの脅威に戦いを挑むのか。
 コスモタイガー隊は健在とは言え、使用可能な砲塔は2番砲塔の3門のみ、そして艦首魚雷、煙突ミサイルだけである…

 そして、島が……いなかった。

 島は、上甲板で艦首の破損状態を調べていて雪を見つけ…敵艦載機の銃撃の犠牲になった。
 自分さえデッキに出ていなければ、島はあんなに開けた場所へ飛び出しては来なかっただろう、と雪はしきりに悔やんだが、もはや取り返しはつかない。
 精密な戦闘機動を要する作戦に島が欠けるのは、非常に苦しい。だが、悲嘆に暮れている時間はもうないのだ。地球連邦政府が彗星帝国の無条件降伏勧告を昨日の午後15時30分に受諾している……降伏文書に大統領が調印すれば、地球人類は全面降伏、…そして地球は地球でなくなってしまう。
——「ガミラス本星での戦いを覚えているか…。真上と…真下…。もろいものだった、って…」
 だが、その雪の呟きが事態を一変させた。
 
 自分を狙って銃を構えたデスラーの姿。酷く損傷したそのメインブリッヂ…そこかしこに口を開ける亀裂、吹き出す白煙……。古代にとっては、それがデスラー戦で記憶している最後の情景だった。なぜデスラーが銃を構えたまま瀕死の自分を放置し、艦隊もろとも撤退して行ったのか…。唯一人、デスラーの言葉を聞き、その立ち去る姿を見守った雪にさえ…真相は分からず終いだった。



 ——私は彗星帝国に身を寄せていた。…戦いに明け暮れる彼等に較べたら、私の心ははるかに君たちに近い…——

 
 
 デスラーの言葉がすべて聞き取れたわけではなかったが、雪には彼が…瀕死の古代を撃ち殺すのは人の道にもとる、と判断したのだと思えた。そんな勝利は不毛だと、そう言っているようにも聞こえた……いや。
「……最早、恨みは消えた…って。あの人、そう言っていたわ…」
「何…?」
「私に…コスモガンを握らせて、…背中を向けて…去って行ったのよ…!」
 一同は騒然とした。
 あれだけ執念深く我々を付け狙って来たガミラスの猛将が……。彼の星を討ち滅ぼしたヤマトへの恨みを…捨てたというのか?!

「……情けをかけられたな」古代が呟く。
 確信は持てないが、自分と雪を見逃し、彗星帝国のウィークポイントを教えて行ったのだと解釈できないことはない。



 ……罠だろうか。



 だが、半分死にかけた俺を生かし、瀕死のヤマトにこの上罠を仕掛ける必要が、どこにあるだろう。これは罠ではなく…起死回生のチャンスを与えてヤマトの底力を見たいと、そう言うことなのではないだろうか…?
“あの彗星帝国を…倒してみろ”と。
 デスラーはそう言っているのだ。



 古代は皆を見回した。
 
「これが俺たちの、最後の戦いだ。…都市帝国上部から艦載機攻撃を…そして海中から帝国下部へ、魚雷攻撃を行う」
 静かに言い放つ古代に、皆が頷いた。
「…アナライザー…、メインコンピューターのCICから、島のフライトデータをお前にインプットしよう。…戦闘機動はそれで幾らかはカバーできる」
 真田が切ない面差しでそう言った……島の代わりには遠く及ばないが、過去に記録されてきた彼の操縦の軌跡が、アナライザーを介して威力を発揮するだろう。
「ショウチシマシタ!」
 太田は痛恨の思いでメイン操舵席に入り込むアナライザーを見つめた。俺には、島さんのようにはこの船を操縦できない…しかし、操縦装置と航法装置の連動を管理することこそが、俺にしかできない、俺の役目なのだ。

 

 ヤマトは地球へ向かい、発進した。

 

************************************

 

 ★ 古代くん、怪我多すぎね?しかも何つ—回復力、ヤマト並み。真田さんに直してもらってるのかな?ん?

 …と言うのはさておき。24話です。ヤマトはきっと、デスラー艦から部品やら弾薬やらを大量にもぎ取り(w)修理と補給をしたと思われます。しかし…ストライカーボルトの損傷って。どんだけ奥までやられちゃってるんだよ(w)。それでどうして勝てると思うのか。いよいよ持って、古代の判断に苦しみますた。ま、主人公は死なず。

<コ・パイのはずの太田ちゃん…>
 よく言われることなんですが…(笑うな、自分!)
 ヤマトのパイロットはなんで島だけなん? ありえんでしょ、普通戦艦の操舵手が一人って(爆)。なんで太田健二郎、操艦しない?苦し紛れに、彼は要するにナビゲーター(航法)専門だから、操舵はしないんだ…みたいな風にしていますが、我が設定では時折太田がヤマトの操舵を担うようにしてみました。
 アナ公、操縦上手過ぎ。あれじゃ太田どころか島もいらないじゃん(w)。
 でもでもでも〜、あの25話の、海から飛び立つ彗星帝国を追っかけていくシーン……めっちゃかっけーじゃないですか!!島に操縦してて欲しかったなああっっ!!! だって、あの状況……かなり高度なテクが必要なシーンですよね…書いてて思ったんだけど、通常の離陸じゃないでしょ…、海はあの土鍋(w)のせいで多分大荒れ、上空に海水巻き上げて、それが落ちて来る激烈な瀑布。その中を追って急上昇、な…わけよ?アナ公にはムリだろっ!?あーーーグヤヂイイイ(って、次の(3)で出てきます、このシーン)。



 ERIの設定では、ヤマトにおけるCIC(戦闘情報中枢/戦闘指揮所:コンバットインフォメーション・センター)とはメインコンピューターの一部だ、として描いてみています。
 新米がいたような場所(第2艦橋)、本来ならああいう場所がCICに相当するんだろうか。いや、CICはあんな被弾しやすいトコには本来ないんだけど。レーダー、ソナー、通信、観測、自艦の状態も敵との位置関係も全部視認では把握不可能な状態での戦闘でしょ、宇宙空間は。第二次大戦前までは、艦長が目に見える敵を相手に、艦橋で指示を下していたけど、現代以降は電子戦ですから、作戦指揮所が上の方にある必要は無いのです。現代でも戦艦、空母(空母だとCDC?:コンバット・ディレクション・センター)には当然CICがあって、そこで指揮・発令が行われる。船のてっぺんにあるのは作戦指揮所じゃなくて、管制塔や操縦室。それだって、現代の空母は海の上に浮かんでるからです。宇宙なら、管制塔も操縦室もCIC同様一番被弾しにくい船体中心部に置く方が絶対安全……。


 そう考えるとヤマトってハテナ?な作りですが、元ネタの大和は第二次大戦中に作られた軍艦だから、CICの観念がそもそもないわけです。高い場所に艦橋がある、っていう、アナログな海戦時代そのまんまの概念でやってるわけね。まあ、わかりやすいけどね…子ども向けアニメとして(w)。
 なので、第一艦橋と第2艦橋も重要だけど、さらにメインコンピュータにCICを担う回路がある、と。そこに島のフライト記録も、古代や南部の戦闘指揮も、全部記録されている、って言う風にしました。
 なので、それを信号化してアナライザーにインプットすれば、島のフライトパターンを解析して操縦するだろうと(なにこの無茶ぶり)。そうでもしないと、ホンット島要らなくなっちゃうからー!!そんで、コ・パイ(副操縦士)のはずの太田の立つ瀬も無くなっちゃうでしょー!

 しかしアナライザーもナゾのロボットだよな……

 

(1)へ     (3)へ     「碧」もくじへ     Menuへ