Original Tales 「碧」第四部(3)

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「高度450キロメートル、電離層突入まであと60秒!」
「サブノズル、出力50…!」

 大気圏突入の衝撃が下部から昇って来る……ブリッヂのキャノピーが数秒間、大気との摩擦熱で赤色に変化した。古代は負傷した右腕を無意識に庇いながら、右に陣取るアナライザーに声をかける…
「アナライザー、大丈夫か」
「ダイジョウブデス! ソウジュウキノウモ リョウコウ!」
「よし…敵のレーダーに捕捉される前に海面へ着水、急速潜行するぞ!」
「リョウカイシマシタ!!」
 相原が声を上げる——「大統領使節団の船が、メガロポリス中央港を出発しました!」
「…高度7万5千、……7万!」

 ——調印なんてさせてたまるか……!! 

「要塞都市確認! 首都沖合30キロの洋上です」
「…コスモタイガー全機発進!」
 厚い積乱雲の層に隠れ、降下速度を落したヤマト。その数分の間に修理されたばかりの艦載機発艦口から、銀の翼が数十機、飛び立った。高度1万……7千……5千……
 ヤマトの巨体は主翼を格納しつつ洋上へと降下し、海面を切り裂く。艦首、そして吃水線が沈み、艦橋が急速に海面下へ没する……

「相原、全権大使の船は!」
「あとおよそ5分で要塞都市に到達するはずです!」
「モールスを使って旧回線で打電しろ。傍受されるな!」



 ——地球時間午前10時を期し、彗星帝国要塞都市への攻撃を開始する。直ちに危険水域より退去せられたし。宇宙戦艦ヤマト艦長代理、古代進——



(藤堂長官。…我々の最後の賭けを…どうか見守ってください…!)

 祈るような思いで待つ……ややあって、太田が叫んだ——
「使節団船舶、都市帝国から5キロの水域で……反転しました!」
「よし……行くぞ!攻撃開始!」

 目標、彗星帝国都市要塞。
 海中を潜行し、艦首魚雷射程圏内にそれを捕える。
 眼前に黒々とその腹を見せる巨大な獣王……すでにこの惑星に君臨したかのような、傲慢なその姿——。
 人類の存亡と誇りを賭して、ヤマトは再び立ち向かう。
 これが最期の——闘いなのだ。

 

  

              

 6門の艦首魚雷発射管が次々に発射準備を完了する。


「発射管ゲート開け!目標、都市帝国!」
「…コスモタイガー、都市帝国頂上部より攻撃を開始せよ!」
 隊長加藤の了解の声とともに、コスモタイガー隊が急行下爆撃を開始した。
 剥き出しの都市上部へ、レジスタンスの焔が上がる——

 




「大帝!上空より地球の攻撃が始まりました…!」
 顔面蒼白のラーゼラーが、叫びながら駆けつけた。地球使節団を迎えるため執務室にふんぞり返っていたズォーダーは、ゆっくりとソファから上体を起こす。

 ……ほう…なるほど…?

「降伏を翻すとは…なんと言う恥知らずな地球人め!」
 ヒステリックに叫ぶサーベラーを横目で睨む。
 美しい星だ…傷を付けずに我が手中に収めるのが理想だったが、抵抗の一つや二つはあって当然。…やむをえまい。

 さてどうするか…と思案している最中にも、上部への攻撃でコントロールセンターの一部が爆撃によって壊滅したとの報が入る。
「…地球人があくまでも闘うと言うのであれば、我が帝国の力を見せてやるまでだ」
「大帝!海中からも攻撃が始まりました……ヤマトです!!」
「なんですって…!?」

 ほう、…ここまで生きて戻って来たか。
 しかし、スオーダーははたと首を傾げた。真上と真下からの同時攻撃…。
(果たしてこれは…偶然だろうか)
 ……まあ良い。誰がこれを仕掛けたのだとしても…よかろう、面白い。
 私がこの宇宙のすべてであることを…改めて知るがいい。

「大帝、都市上部だけで戦うのは危険です…!浮上して迎撃機を出しましょう、早急にご決断を!」
 小心者のラーゼラーはうわずった声で訴える…参謀総長のサーベラーは女とはいえ落ち着いたもので、溜め息を吐きつつズオーダーを振り返った。
「大帝、よろしゅうございますか」
「…よし、浮上せよ…!」
 大気圏外へ出て、攻撃機であの小五月蝿いやつらを始末する。…そして、今一度…この愚かな地球人類に我が帝国の脅威を見せつけねばなるまい。





「都市帝国、浮上します…!!」
「メインタンク・ブロー!我々も浮上する。浮上と同時に接近、攻撃再開!」
「メインタンク・ブロー!ウキアガリマス」
「加藤!コスモタイガー全機大気圏離脱、帝国都市を追撃せよ!」
 海水を大量に蹴立て、都市帝国は浮上して行った。発生する巨大な渦に巻き込まれぬよう、その後を追う。
 

 巨大な獣に食らいついて行くその小さな姿を、メガロポリスのビルの上から大勢の市民が見守っていた。


「次郎っ!!中に入りなさいっ」
「お父さん、兄ちゃんのヤマトが……!!」
 島次郎は父の止めるのも聞かず、ビルの屋上に走り出た。帝国都市が首都の沖合に着水して来た時、メガロポリス・セントラルにある彼等の家は要塞都市の起こした津波によって水没した。避難勧告に従って否応なく高台に非難せざるを得なかったが、海上を望むビルの上も決して安全ではない。
「次郎!!地下都市に非難するぞ、…ほら、来るんだ」
「お父さん、あれを見て…!ヤマトがいる」
 次郎の声に、周囲の人々も目を凝らし洋上から海水を蹴立てて浮かび上がろうとする要塞を見つめた。
「……おお…!」
 巨大な蜃気楼のような黒い影が、大量の海水の飛沫とともに浮かびあがった——そして…
「……ヤマトだ!!」
 口々に上がるその声に、次郎と父は立ちすくんだ。急激な速度で上昇する都市要塞の起こす衝撃派、そして大量の海水が落ちる爆布の中に、あの艦が…いた。
「大介……」
「兄ちゃん…!大介兄ちゃん!!」

 ——頼むよ……!地球を救えるのは…ヤマトだけなんだ…!

 


 
「ヤマトが……ヤマトが行く」
 その姿を見守り、祈りを託していたのは彼等だけではなかった。帝国都市の浮上に伴う激烈な大波に翻弄されながら、かろうじて転覆を免れた全権大使使節団艦艇内で、藤堂平九郎が上空を見上げていた……

 この賭けに負ければ、全地球を地獄に落すことになるやも知れぬ。だが…君たちはかならず勝つ、私は……そう信じる。

 眦を決し、最敬礼する古代たちヤマト乗組員らの姿が脳裏に浮かぶ。

 藤堂は揺れる船のブリッヂから、果敢に飛び立つヤマトに向け、さっと挙手して答礼した——





「彗星帝国都市要塞、右25度、…プラス3度!速度30宇宙ノットで上昇中!」
 あの巨大な塊が、なんと言う速度で上昇するのだろう!
 艦橋のキャノピーがビリビリと振動する……大気を切り裂く巨体が起こす、ソニック・ブーム。グレイハウンドのように食らい付いて行くヤマトを振り落とさんばかりに、海水と乱気流が襲いかかる…
「ウワ、ワワワ…」
 気流の乱れに、アナライザーが悲鳴を上げた。上昇角が落ち、艦首がブレる…
「しっかりしろっ」傾く艦橋をよじ上るようにその傍に駆けつけ、太田が叫んだ。「主翼格納、抵抗を減らせっ!上昇角45度!」
 舵を握るアナライザーの腕を、太田が支えている。厳しい傾斜の中、両脚を踏ん張り操縦桿を引く。「よし…外気圏を出るぞ…!」
 古代は右をちらりと見やり、太田に頷いた。
「大気圏離脱と同時に攻撃再開する!主砲発射用意!」
「第2主砲発射準備完了! 副砲、発射準備完了!」
「タダイマ、エンジンシュツリョク ダイ5センソク!」
「第5戦速から最大戦速へ……最大からいっぱいへ!!」


 要塞都市は大気圏を離脱した。
 速度を落し、さながら地獄の門のように…ヤマトを迎撃せんと動きを止める——
「要塞都市の下部、ガトリング砲の射程外、仰角より上の位置から砲撃を開始する!」
 古代が叫ぶと同時に、加藤の声がインカムから響いた——
<艦長代理っ、帝国都市下部から…敵機来襲っ!!>


 無数の小型敵戦闘機が、どこからともなく現れた。その数は無数、瞬く間にヤマトの周囲でCT隊がドッグファイトに入る。…もはや、都市帝国の上部への攻撃どころではない。都市帝国本体からのミサイル攻撃、そして増え続ける敵迎撃機…。やむなく降下し、都市要塞の真下へと退避するヤマトを、それらが執拗に攻め立てる。
 要塞下部に設置された無数の銃眼が、さらにヤマトを狙う…すでに上部甲板は被弾箇所が全面の30%を超えた。

「わからん…ここのどこに敵の弱点があるんだ…!」
 レーダーを睨みつけるように見据え、呟く真田。
「どこなんだ……デスラーの言っていたウィークポイントというのは…!?」
 真田は脂汗を拭う手を止め、キャノピーの外を飛び交う敵機を見据えた。巨大な都市の下部は、さながら一つの惑星のようであり、太陽と反対側に位置するヤマトの現在位置は帝国の影にすっぽりと覆われ、視界が利かない。

 真上と、真下。

 その言葉を無意味に反芻しつつ、敵機の翼がキラリと光る一瞬を見つめる。あの位置で機体を捻るのはなぜだ…?
「あああっ!!」
 ほんの一瞬である。
 回転式の射出口が素早く開閉する瞬間、敵機が機体を捻って、その出入り口からまるで搾り出されるように発進して行く——。その瞬間に、一瞬反射光が煌めくのを、真田ははっきりと目撃した。

 第2艦橋の新米をインカムで呼ぶ。
「新米、新米っ!!あの攻撃機の射出口が近くにあるはずだ!!それを探って、位置を割り出せ!!」

 

 

                (宇宙戦艦ヤマト2 24・25話前半)

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 ★ ………次郎、大介兄ちゃんは、今お出かけ中だよ……(泣)

 <次郎、一人歩きすな!>
 「えみちゃん」を助けてた時もそうなんだけど、次郎、頼むから一人歩きすんな。危ないじゃん…。えみちゃんを助けたのは自宅マンションの入口付近だったのかもしれないが(でも、あの住まい…第4話で出て来たのは郊外の一戸建て、という風情だったのに突然都心の高層マンションに移ってるんだよねえ。避難先?仮設住宅?)。
 しかもあの海浜地区のビルの屋上に、次郎、ひとりで出てるんだよ。4話でも港の重機(なんかのガントリーみたいなもの)の上に登ってるという危険野郎ぶりだし…。
 だもんで、ここではとりあえずお父さんに登場してもらいました。しょーがないねえ…。

 それと、太田ちゃんがちょっと活躍してます。アナ公のピンチに、上昇中のブリッヂ駆け上って(すご)手助け。手動操縦が命のヤマトです。太田ちゃんだって、ロボットには負けてません…!

 

 

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