緑ふん純情派(5)

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(5)大体どこが「緑ふん」なワケ?


 しかし、窓辺に乗り出している彼女のすぐ後ろに立ついかつい大男を目にして、全員が固まった…… オールバックの白髪に、土気色の肌、そして…真っ黒いスーツ。

「なんだお前達は」
「テ…テレサを助けに来た!!彼女を放せ…!!」 
 大介は思わず立ち上がって叫んでいた。大男に後ろ手に捕まえられた彼女が、とても気の毒だと思ったからである。
「うひょーーーーー島、カッコいいぞ〜〜」
 真田が一人、手を叩く。
「せ、先生やめて」
 真田の声に我に返り、思わず赤面。叫んでしまった自分に後悔した。

「……あなたは」
 ところが、テレサの後ろに仁王立ちになっていたいかつい男が真田の顔を見て、はて、と言い淀んだ。
「……あなたは、真田志郎画伯では…?」
「はい?」
「『未完の獺祭図』を描かれた、真田画伯ですね?!」
「ミカンのダッサイ図
ゥ?……」古代がおうむ返しに呟いた。
「あー……」
 真田が恥ずかしそうに頭を掻いた。「そんな昔の絵をご存じとは。いや〜お恥ずかしい」


 なんだか変な事になって来たな…
 白髪の男に招かれ、真田を筆頭に、一同は邸の中へと招き入れられた。

「……島さん!来てくれたのね…!!」
 嬉しそうに駆け寄って来たテレサを見て、大介は改めて思った。
(…やっぱキレイだ…カワイイし)
 頭の隅に、森雪の姿がちらついた。だが、それは今は、と思い直す。
「君は…捕まっていたんじゃないのか?」

 さあどうぞと言いながら執事に茶を運ばせて来た白髪の男は、大介の言葉に苦笑する。
「テレサはすぐに飛び出していく不良娘でしてね…」
「あ、ひどいパパ」
「パ…」

 パパぁ…?


 私はテレザート学院理事長の頭王田と申します。
 白髪の男は初めて、柔和そうな笑顔を浮かべて会釈した。
「甘やかして育てたせいか、テレサは気に入らない事があるとすぐに家を飛び出してしまうので、手を焼いておったんです。さっきも窓から飛び降りようとしておったもので、つい」
「と、飛び降り……」
 大介は思わず口をポカンと開ける。
「やだパパ、言っちゃダメ」小声で
テレサに小突かれて、頭王田はふにゃりと笑った。「だってお前、危ないことばかりするから…」
「…………」

 そんなこんなで、学校にもろくに行こうとしないので、家に閉じ込めて家庭教師を付けたのですが、それがまたとんでもない男で。テレサの手引きをして、外へ遊びに行かせてしまうんですよ……
「…(家庭教師)」
 大介は、ふとそれがあのムッツリ×××な金髪のスーツの男なのだろうと思ったが、黙っていた。

 要するに。
 この理事長のパパが、娘を可愛がるあまりに彼女を軟禁していた、というわけか。

「ですがー、若いお嬢さんを閉じ込めるのは感心しませんなあー」
 真田の言い分に、頭王田はバツが悪そうに頭を掻いた。
「おっしゃる通りです。…ですが、娘がね…」
 彼はさらに言いにくそうに続けた。「なんと、この島くんのいるヤマト高校だったら真面目に行く、と言うんですよ」
「ほう」
「画伯がヤマト高校の教諭でいらしたとは、何かのご縁と思います。何とぞ転入のお計らいをお願いしたいのですが…」

 バカ親父。
 
 黙って聞いていた古代たち、もちろん大介の頭にもその言葉が浮かんだ。……しかも、多分このオヤジにしてあのムスメ、なのだろう……

(島、大変なことになったな)
 古代はニヤニヤして横に座っている大介の脇腹を肘で突ついた。
(島くんがいる高校だったら真面目に行く、だって)
(気に入らない事があるとすぐに飛び出す不良娘、だってよ)
(うぷぷぷぷ)
 才色兼備のマドンナ森雪、がタイプなはずの大介が、そんなじゃじゃ馬と付き合えるのだろうか?
 南部が(オレならどんなじゃじゃ馬でも乗りこなしてみせるぜぃ)と反対側から囁いたので、大介は我に返った。
 頭王田の横にちょんと座っているテレサが、ちょっぴり頬を染めて自分を見つめている……

 ……可愛いから、いいか。

(……うるへー。お前には渡さねー)
 テレサの瞳を見つめ返しながら、大介は南部に囁き返した。

 そしてテレサは晴れて大介たちのクラスメートになったのだった。


 だが。
 大介がテレサとの付き合いを真剣に「どうしよう」と悩み始めるのに、それほど時間はかからなかった………



 それは、初めての数学の時間での出来事である。

「ではー、この問題解ける者。前に出てやってみなさい〜」
 古代守がニコニコして、そう言いながらテレサを手招きした……「解ける者」って、テレサを指名してるじゃないか…先生…。
(大丈夫?わかる?)
 大介は隣の席のテレサに心配顔で囁いた。
(はい♪)
 彼女は、案外賢かったので、そっちの心配は…なかった……のだが。

 黒板前でチョークを使って問題を解いて行くテレサの後ろ姿を足元から上へと眺め、例によって守が鼻の下を伸ばしている。
「うむ。…よくできたね…ハニー」
 正解を書き終わったテレサの肩と腰を抱いて、くるっと社交ダンスのキメポーズ。
 きゃああ、と守ファンの女子から悲鳴が上がる……とその刹那。
(あ……しーらね)
 大介、そして南部たちも目を逸らす。
「きやあああああ!!」
 ……上がった悲鳴は、守である。

 テレサのパンチが守の顔面に入り、直後に足払いがかかっていた。……真上と、真下。

「………言わんこっちゃない」
 テレサの気に入らない事があると、相手はこうなる。そのパワーはまるで、反物質が物質と接触し、対消滅を起こすかのごとく。

(ああ、どうしようかなー…怖いなー……)
 あの金髪の男が言わんとしていたのは、この事だったのだ……(多分)。
 大介は戦慄する。この自分も、いつ彼女の機嫌を損ねるか分かったものではない。…そうすると、ああなるわけで……。

 

 あとには、こっぴどく叩きのめされた守の死骸が横たわっているだけであった———。

 


                         「緑ふん純情派」 おしまい。
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 <続編予告> あるんか、続編…?w
 
 
美しいガールフレンドのテレサと、嬉し恥ずかしな新生活(=怯える毎日?)を送る大介。
 ところが、マドンナ森さん、がちょっとムッとしているのである。
(なによ、島くんたら。あたしのことスキだって、あちこちで言いふらしてたくせに、あたしを差し置いてなんなのあの天然娘は!?)

 アニオタ古代の立つ瀬は!?真田は実は物理教師ではなかった!?

 などなど、新たな展開に乞うご期待!(…だから、どこが「ふん…」なのよ??)

 

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