緑ふん純情派(4)

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(4)真横と真上と真下と斜め下


(金髪…この人、彼女の親戚かなんかかな)
 大介はあちこちに絆創膏を貼ってもらいながら、金髪の男の様子を観察した。

 豪邸の裏手、「家で」とは言うものの、金髪の男はこの家に住んでいるわけではないようだ。間借りしている…といった風だった。そこは小さな離れである。
「こっぴどくやられたなあ!」
 真田が畜生、という風に唸った。
「……やったの、先生でしょうが…」
「先生は、お前が無事で嬉しいぞ!」
「……おい」
 またもや日本語の通じない真田。大介は諦めて金髪の男に思い切ってテレサの事を聞いてみる事にした。

「監禁された娘…?」
「いや、そうは言ってないですけど」
 ……閉じ込められている女の子がいる、って言ったんですけど。
「…緊縛少女…ああ、それなら知っている」
 金髪の男が、フ、と自嘲するように笑った。
「そんなこと言ってねえよ」閉じ込められてるって言っただけだっつの。なにそれ、AVのタイトルですか。
「君はあの娘を救い出しに来たのか…?」
「…というか、彼女に助けに来て、って頼まれたんです。ご存じなんですか?っていうか、だったらそんな悠長にしてないで警察に」
「島!先生も加勢するぞ!なんだかすごい事に巻き込まれているじゃないか!こういう事は、我々大人に任せなさい!」

 真面目な顔でAVのタイトルを口ずさむ金髪の男とトンチンカンな真田先生。こんな大人たちより、警察の方が…… 大介はとっとと決めて携帯を取り出した。

「やめんか」
 金髪の男が、急に色をなして大介を止める。
「警察はいかん。…の身が危ない」
「は?」
 金髪は咳払いをして、ゆっくりと言った。
「……娘を助け出すためのヒントをやろう。『真上と真下』に気を付けろ」
「マウエトマシタ?」

 大介と真田がきょとんとしていると、金髪の黒スーツはすっと立って部屋から出て行ってしまった。
 なんだ?

「真上と真下…?」

 離れの玄関先まで出て来て、真田と大介は顔を見合わせた。

 

 ………と…
「真田先生…!」「島…!」
 豪邸の母屋へ続くだだっ広い、鬱蒼とした庭の植え込みの中から、聞き覚えのある幾つかの声がした。
「……古代!」相原、南部、加藤!!
「なんだあ、お前達!!」
 匍匐前進して来た古代を真田が見つけた。
 人んちの庭で、コソコソと感動の再会。
(……絶対ヘンだ…)
 大人の真田先生までが、声をひそめて腹這いになっているのはどう言うわけだ……。
隠れているつもりなのだろうが、はっきり言って全員丸見えである。
 大介は早くどうにかしてここから出たい、と思った。

「島!お前は絶対来ると思ってたよ!」
 古代が嬉しそうに小声で叫ぶ。
「いや……真田先生に放り込まれて、死にかけただけなんだけど」
 で、得体の知れない内部告発者がいてさ……
「そうだ!!あの黒いスーツの男がくれたヒントを頼りに、テレサという娘を助け出すんだったな」
 真田は早くも大人の貫禄で、学生達を引率しようと張り切り始めた。
「…真横と真上、だったな?」
「は?違いますよ、真上と真下、でしょう」
 大介は焦る。また先生、日本語ちゃんと聞いてねえよ!!
「いや、先生は真横、と聞いたぞ」
「真田先生」
「いや、真横と斜め下、だったかな」
「だから真上と真下だっつの」
「いや、真横と三本向こうだ」
「……もうどーでも良いわ」
 
 大介が脱力しかけたその時だ。
 彼らが潜んでいる(つもりの)庭の“真上”に位置する豪邸の窓がバン!と勢いよく開いた……

「……助けて!!」
「あっ……」
 見上げると、そこに居たのはテレサだった。
「テレサ!!」
「島さん!!」


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5)大体どこが「緑ふん」なワケ? に続く