緑ふん純情派(3)

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(3)助太刀なのか妨害工作か(w)


「…ここだ」
 白金通り2-3-7。
「でかい家」
「マジ豪邸だな」

 芸能人か、それともなんか悪い事してる人(政治家とか)の家?
 古代、相原、南部、加藤は授業をフケてきて路上にたむろすバカ学生、といった感じでうまく街に溶け込んでいたつもりだった。
 高い塀にぐるりを囲まれた豪邸の内部は完全に見えない……全速力で走っても、この豪邸を一回りするには5分くらいかかるに違いない。
「どうする?」
「どうしようか」
 生憎、ここまで気焔を上げて来てみたものの。いきなり救助隊は頓挫した。
「そうだ、島の携帯にメール送ってみろよ。相手の子が持ってるんだろ」
「あ、そうか」
「えーと」
 全員が自分の携帯を出して親指操作を始める。



 メールの着信音が鳴った。
「……!」
 ベッドに座って膝を抱えていたテレサは、はっと顔を上げる。
(……メール……)
 島さんの携帯に、ほぼ同時に4件の着信。



<……僕だよテレサ。君を助けたい。どこに居る?どうやったら君を助けられる?教えてくれ! 島>
<テレサさん:声からすると、君は奇麗な人なんだろうなあ。体はほっそりしていて、きっとイスカンダルのスターシャみたいなんだろうなあ。あっと、アニオタじゃないですYO僕(^^;)   島>
<今、君から教えてもらった家の外に居ます。仲間が一緒に来てくれてる。中に入る方法は…?僕らは合計で4人です。特に、相原っていう奴とは仲良くしてね   島より。>
<テレサさんへ。無事ですか?ってゆーか、すごい豪邸だねココキミんち?(笑)。進入経路を指示して下さい。必ず助けます♪なんちって  ★SHIMA★>

(……………)
 4件の着信は、本文末尾にすべて『島』と署名があるが、どれも違う携帯から送られてきたものだった。テレサはしばらく順番にそのメールの内容を見ていた……(僕らは、合計で4人です…。そう、それで…4件)
 くすっ。
 島大介さん。
 あの人のお友達は、みんな…ユニークね。島さんがくれたのは、どのメールかしら…… でも、自分の携帯からのメールはない。
 皆ご丁寧に「島」を騙っているが
、島の携帯には個々の名前が表示されている。加藤、古代、相原、南部……という名前だと言うのは分かった。だが、彼らと一緒に島が来ているかどうかまでは、分からない。


 テレサは嬉しくなって、島の携帯から彼らに返事を出そうとした……その時である。
「テレサ」
 部屋のドアが急に開いたので、テレサは携帯を思わずスカートのポケットに滑り込ませた。

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(もう〜〜、やんなっちゃうなあ)
 こちらはみんなの後を追いかけて、白金通りまでチャリンコをかっ飛ばしている最中の大介である…

 くそ暑い。夏の日射しが背中と半袖Yシャツの首筋を焼いている。風を切って走っていても、体温は上がる一方だ。しかも行く手はきつい上り坂。
(くそー…)
 古代たちが、冷房の効いた電車で涼しくとなりの駅まで向かった事を大介は知らなかった。目の前に聳える朝日坂。しかも坂の下で、赤信号に止められる。 
(ひ〜〜〜〜)

 だが、信号が青に変り、意を決して坂を上り始めた大介に、声がかかった。

「島!」
 へ?と横を振り向くと、赤い中古のフォルクスワーゲン・ビートルが並走している。
「…真田先生」
 窓を開けた運転席から、美術教師の真田が顔を出していた。

「どうした、何か問題が起きたかー?」
「いえ、その」
「古代守から聞いた。弟が絡んでるらしいなー」
「ええ、まあ…」
 大介は気が気ではない。真田先生、この坂、チャリの俺に並走してるってことは、かなり、速度が、遅いってことで…ヒィ、ハァ、フゥ…
「お前が授業を抜け出すほどだ。何か余程のわけがあるんだろう」
「はあ、まあ」
「俺が手助けしてやろうかぁ」
 ………そんなことは、いいから。…早く行ってくれないと…先生、社会の迷惑だよ……
 大介は思わず振り返る。真田のビートルの後ろには、渋滞の列が出来ていて、今にもクラクションの大音響が飛びかかってきそうだった。
 大介は、朴訥な笑顔を浮かべている真田の、車の窓に手をかける。
「危ないぞう?」
「いいですから、このまま坂の上まで走って下さい。せめて時速40キロくらいは出して」
「よぉし〜、しっかりつかまれェ!」
「わーーー」

 先生っ、40キロくらい、って言ったじゃないカアああああ!!!!

 真田には、たまに日本語が通じない事がある(秋田弁ならどうにか通じるが・w)……それを大介は忘れていた。
 ポンコツビートルは急加速し、大介は大体時速70キロくらいで持って行かれた……と思う。

 どがしゃーーーーーん。


 坂の上は、T字路、だった。
 そこが白金通り2−3−7、である。そして、たまらず車から手を離した大介が、T字路で急停止した真田の車から放り出された先は、その豪邸の裏門だった。
(……こ……殺す気ですか……真田先生)
 どうにかよれよれ起き上がる。


 …と。

 大介の目の前に、黒光りする革靴が現れた。
「……大丈夫か少年」
 見上げると、このクソ熱い日射しの中でびっちり黒いスーツを着た男が立っていた。髪は金色、しかしこころなしか顔色が青い。
(あんなもん着てるから。…あまりの暑さに顔色悪くなってるんじゃないのか)
 大介はそう思ったが、自分も放り出されてこの家の裏門に激突した身である……骨の一本も折れていないのが不思議なくらいだ。


「おいー、大丈夫かあ」
 真田がビートルを路肩に停め、慌てて走り寄って来た。「島!何ともないか」

 なんともないわけ、ねーだろ。

「………良かったら家で手当てして行くと良い」
 金髪の男は慇懃にそう言うと、くるりと向きを変えて裏門から中へと入って行った。手当てしてやるからついて来い。そんな風である。

 真田と大介は顔を見合わせた。


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4)真横と真上と真下と斜め下 へ続く。