誰だよ……、続きがある、なんて書いたの……。
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緑ふん純情派
<第2話> 世界の中心でナニを叫ぶ
(1) 無限に広がる…バトルフィールド
(真上と真下…真上と真下…まうえとました……)
呪文のように唱えているのには、ワケがある。
数学教諭・古代守が屍にされたのを皮切りに、一昨日はクラスの根本が、昨日は林がやられた。大体、そろって頭王田さんに馴れ馴れしくしすぎるからだ。
今、大介の目の前には、花柄のランチョンマットの上に三段重の弁当箱を開店した頭王田テレサがいる。昼食の時間なので、机の上にはあれこれ広がっているが、食欲なんか微塵も湧かなかった。
彼女の気に入らないことがあると、瞬殺されるのだ……真上と真下に目視不可能な何らかの攻撃を受け、すでに3人が犠牲になっていれば、大介だってビビらずにはいられない。
(……やっぱ、俺は森さんみたいな女の子の方が…)
学年のマドンナ・森雪は、マドンナ(聖母)、というだけあって寛容だった。スカートをめくられても、「いやぁん、もう!」で済ませてくれる。…だからといって、大介はそんな下劣な行為を働くつもりはない。それどころか、いつも森さんスカートめくりに遭って可哀想に…と同情しているつもりだ(ただし目の前でやられたら、目をつぶらないだけの分別はあるが)。
だが、同じ事を誰かがテレサにしたら…… と思うと恐ろしくて堪らない。
だが当のテレサは、大介が怯えていることなどまったく気付いていなかった。とにかく、島さんLOVE、である。
「…ハイ、島さん、あーーん(にっこり笑って、箸の先には唐揚げが)♪」
「あ、……あーん」
(うわーーーーーバカップルしてるバカップル)
どこか背後で南部か相原か、そんな声も聞こえたが、大介はテレサの「ハイ、あーん」に逆らえるはずがない。頼むよ頭王田さん、空気読もうよ……(泣)。
しかも、怒ってる奴もいる。
「まったくなあ、なんで島なんだよ…」
「なあ?」
「もっとイイ男たくさんいるじゃんか」「誰だよ」「おめーじゃねーよ」太田が言われて石化。その横で斉藤、山本あたりが解せないー許せないー、と騒いでいる。が、大介にしてみれば、そんなこと言われましてもトホホホ……なのであった。
困っていると、教室の反対側になにか険悪な空気を感じた。
見れば、窓側にももう一組バカップルがいる。
……古代と、件の森雪、だった。
いや、古代が一方的に森雪の真向かいに自分の机を持って来て弁当を食べているのだが、これはもう毎度のことで、雪本人も諦めているボランティア活動のようなものだったから誰も文句を言わないってだけの話である。
だが、そのマドンナ森さんの機嫌が本日はことのほか悪い。
「…古代くん、口開けて食べないで!」
「へっ?だって森さん、口開けないと食べれないよ(笑)」
「喋りながら食べんな、つってんだよ……」
「いやあ、楽しく団欒したほうが消化にもい」
「お黙り」ベチ!!
ぶ・ぶったなああ!!オヤジにもぶたれたことないのにィ!と(嬉しそうに)頬を押えた古代を白い目で一瞥すると、雪はあからさまにこちらを睨んだのである。
大介はさらにビビった。
(な、なんで森さん、こっち睨んでるの?!俺、なにかした?!)
雪は、怒っていた。
彼女の内心を通訳すると、大体こんな感じである。
(なによ、島くんたら。あたしのことスキだって、あちこちで言いふらしてたくせに、あたしを差し置いてなんなのその天然娘は!?それに、大体その子目立ちすぎるのよ……このクラス、いいえ、この学校にヒロインは2人もいらないわ!!)
マドンナは決めた。
…島くん、略奪してやる
(だって、この私を放っておいて、私より奇麗っぽい子を他の学校から引き抜いて来るだなんて、島くんのクセに生意気なのよ!!)
のび太のくせに生意気よ!…じゃなかった、自分だってマドンナのくせに過激である… だが、そんな素振りは微塵も見せず。
雪はすっと立ち上がって、大介の方へ真っ直ぐに歩いて行った。
「あ、森さぁん」なんだよ、どうしたんだよ〜。呼び止める古代には目もくれない。
「も、森さん」
うわー、こっち来た。
「島くん」
はい、なんでしょう。大介は、テレサにもらった唐揚げを急いで飲み下した。雪は先ほどとは打って変わって目の覚めるような笑顔だ。ほえー、やっべえ、やっぱ森さん、美しい……
「…ほっぺたにご飯粒ついてるわよ」
雪はニコッと笑うと、ほんのり花の香りのするハンカチで大介の口元をそ、と拭った。「もう、お茶目さんなんだから」
教室中のヤローどもの視線がドッと大介に刺さる。
(何してくれてんの島!?)
(テメ…あとでコロス)
(ひどいよひどいよ島くん、自分ばっかり…)
(あわわわわ…)
大介は何が起きたんだか分からない。
目の前では、間に割って入られたテレサがちょっと不服そうな顔をしていたが、急にしゅんとして下を向いた。
「…ごめんなさい。目の前にいたのに、私気がつかなくて」
「えっ、そそそそんなことないよっ」
(…やるわね)
雪は内心チッと舌打ち。正面切って張り合おうとしないところが、天然で手強いわ… 引けば島くんが追ってくる、ってちゃんと計算してる。…じゃ、これはどう?
「…あのね、私も今日少し余分に作ってきたから、食べてもらおうかなって思って♪」
「えっ…」
雪のもう片方の手には、肉団子の串刺し(リボン付き)。「はい、どうぞ」
目の前に差し出されれば、これは、食え、ってことで…… 事実上の「ハイ、あーん」…であって……
(ももも森さんがっオレにッ)
顔から火が出る音がする。ホント?これホント?ユメじゃないよね?
「島ぁ、それオレのだぞお」
窓の方から古代が叫んだが、無視された。
「ハイどう…」ぞ、と雪が言った途端。 ぱくっ。
「美味しいっ♪」
パクっと行ったのは、テレサだった。
(あ……俺の肉団子)
だが、一口大の肉団子二つのうち、テレサがパックリ行ったのは一個だけ。もう一個は残してあった…
「ハイ、あとは島さんがどうぞ♪」半分こね?うふふ♪
大介は目の前の、雪の手に残った肉団子から、そ〜……っと上へ目だけ動かした。
……笑ってる。森さん、ものっそい笑ってる…… 青筋立てて笑ってる……。
頂くべきか、辞退するべきか。頂けばテレサと間接キッs…だし、辞退すれば森さんの立場が。
大介は、次第に自分が石と化して行くのを感じた。
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(2) 家政婦は見た、的な。