緑ふん純情派 第2話(5)

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(5)華麗なるオチ(どの辺が?・w)
 


 灯りのついていない自室に駆け込んで、テレサは真っ赤な頬を押さえた。
「やだもう、こんな家…!出て行きたい…」
 なんかパパは異常なロリでキモイし、ママはバイト執事と浮気してるし、もうサイアク。
(……島さん)
 こんなヘンな家だなんて、彼に知られたらきっと嫌われてしまうわ。

 ベッドに突っ伏した。月明かりが、広がったテレサの金色の髪をふわりと照らし出す。
 だが、部屋の中にいつもの気配を感じて、テレサは顔を上げた。

「ちょっと。…私の部屋に勝手に入るのやめてくれない? ……総藤さん」
「……バレたか」
 薄暗がりの中からモッソリ姿を現わしたのは、唇に一輪の白い薔薇をくわえた、金髪に青い顔の黒スーツ。彼の名は、デスラー・総藤…… テレザート学院に吸収合併された「神羅周高校」の元校長兼理事長であった。

「……しかしテレサ。私はキミを助けたいと思っているのだ。……君は今、『こんな家ぶっ潰してやりたい』と呟いていなかったかね」
「言ってません」
「……こんな家、乗っ取ってデスラーさんに差し上げたい、と言っていなかったか」
「言ってねえっつの」
 総藤は、寸でのところでテレサの鋭い蹴りを避けた。「フッ、そう何度も喰らわされてたまるものk……ぐぎゃぼ」
 顔面にめり込んだ鉄拳を剥がしながら、しかし総藤は食い下がった。
「ではっ、私の花嫁になる気はないか?バイトのカテキョーとの恋、よくある話ではないか。そうすりゃ私はもはやバイトなんぞしなくても済むし、我が神羅周高校は再興し」

 3秒後、テレサの部屋の前の廊下に、頭部と脚部に強烈なダメージを負ったデスラーが転がっていた。

(ああ、またしても。だから言わんこっちゃないのだ…おいたわしや、デスラー・総藤…)

 同じくこの頭王田邸に、没落した高校の再建を夢みてアルバイトに来ている元副校長のタラン(茶髭執事)が、それを物陰から悲しそうに見つめていた。 
 しかし、バイト終了の時間なので、そのままボスを見捨てて家路につく。
(……毎日、総藤様も大変だ。…あの頭王田の娘のお守りとは)

 まあ、家庭教師なんて言うのはもともと名ばかりだ。とりあえず、今、我が儘娘はヤマト高校へ通うようになってくれた。もしかしたら、総藤様のカテキョーはクビになるのかもしれぬ…。かといって、私のよーに執事業には向いておられないしな、あの方は。しっかし総統なんて潰しがきかねえ職業だよなー、ホント。ハー副総統で良かったよオレ。

 ブツブツ言いながら、駅前にある赤提灯でちょいと一杯、と洒落込んだ。

 ヒゲをなでなで、座った屋台の席には、おや、見覚えのある顔が…ひいふうみい。
「おお、これは沖田先輩では?」
「ん?……おう、…タランくんじゃないか」
「タラン?…やあ、懐かしいな!古代だ、覚えてるか?」
「もちろん!…して、そちらは…真田画伯!」
「やあやあ」
 屋台のオヤジが、ヤキトリをパタパタやりながら笑う。「こりゃあ、ちょっとした同窓会ですな」
「オヤジ!…もしかして、あれ?」
「3ーAの山崎だよ、タラン」
 古代守がニカッと歯を見せた。全員、ヤマト高校のOBである……
「ここに頭王田がいればカンペキじゃないか」
「はあ、……」
「タラン、そういやお前の神羅周高校って、頭王田のテレザート学院に吸収合併されたんだろ…? お前、今何やってるんだ…?」
「まあ、色々と…」
 昔のよしみで執事として頭王田に雇ってもらっていることは、内緒にしておきたいタランである。
「しっかし頭王田のヤツ、儲けてるよなあ……」
 沖田が丘の上を振り返ってそう言った。俺なんか、しがないヤマト高校の雇われ校長だって言うのによぉ。
「あいつ娘にメロメロでさ、軟禁するわ監視を付けるわ、ついにはだよ、うちの高校の生徒に娘が惚れたから、ってんでこっちへ転入させてくれって。んっとにむちゃくちゃなんだよ〜」
「だから言ってるだろ、あいつは不治の病だって」
 山崎がけたけたと笑う。
「娘にメロメロで奥方に弱い、っていう病気な?」
「ありゃあ永遠に治らねえな、きっと」
「昔からロリでMだったよな〜あいつ」
「ぎゃははは」

 タランは笑えなかった。
 その変態お金持ちの家に、我が敬愛する総藤様と自分が雇われているだなんて。…しかも、自分が頭王田の奥方サーベラーに気に入られアブナイ橋を渡っているだなんて……。
(…きっと私も、変態という不治の病なのだ…)
 タランは開き直る。
「山崎、もう一杯」
「お、イケるね」
「何だか分からんが飲んで忘れちまえ」
「飲め飲め〜」

 冷静に見れば何やらものすごいメンツであるが、そうして変態の夜は更けて行ったのだった——。

                         *



 一方、大介は真剣に悩んでいた。
(……テレサ。あんなに元気なのに)
 君が不治の病だなんて……信じられないよ…。

 弟の次郎が「遊んで遊んで」とまとわりついてくるのを軽くいなしながら、大介は溜め息を吐く。
 彼女、お腹を押えていた。来週、手術する、って言ってた。
 ……治るんだろうか。
 本当はもう治らないということを、彼女一人が知らないだけじゃないのか……?
(君は一体、…なんの病気なんだ……)
 
 
 しかし、大介の心配をよそに、テレサはその翌週2日間学校を休んだだけで、再び溌剌と登校してきた。
「……頭王田さん」
 大丈夫なの?
 森雪が恐る恐る訊いた。古代も心配そうだ。
「大丈夫ですよ?」
 大介はテレサの両肩をしっかと抱いて、彼女の顔を覗き込む。後ろでゴニョゴニョひがんでる外野なんざ、もう知ったことか。
「……治った、って本当なのか?」
「本当よ?」
「俺に心配かけまいとして、強がっているだけじゃないのか?」
「本当に手術して、ちゃんと治ったってば…」
「テレサ、本当のことを」
「本当だってば」
 ほっぺたをミュ〜〜〜と限りなく左右に引っ張られ、大介は黙った。


「…古代くん、あれはどういうワケ?」
「……認めたくないものだな、自分自身の若さ故の過ちというものを」
 言うと同時に雪にサバ折りを喰らった古代は、それでも床に転がりながら呟いた……「我が生涯に、一片の悔い無し」

 


 不治の病だったのは、まあぶっちゃければテレサのパパ、だったわけで。

 では、テレサの病気とは、一体何だったのか…。
 それは、今となっては永遠の謎である。



 ——分かったとしても、絶対に言ってはいけない。

 メールとか、ブログとかにも書き込んではいかんのである。拍手コメント、管理人のみ閲覧できます、にも書いてはならない、のである………

                

    古い〜アルバムの中ぁに〜 隠れた〜〜思い出ぇがい〜っぱい♪


                           第2話 おしまい。
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