緑ふん純情派 第2話(2)

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(2) 家政婦は見た、的な。


 森雪の恐るべき計算ずく攻撃に対し、天然変化球で対抗するテレサ。野郎どもの冷たい視線に晒され、シベリア平原の真ん中で大介が石化してしまったランチタイム………

 一方古代進は、と言えば、A.T.フィールドを周囲に展開しながら廊下をふらふら歩いていた。

(……森さんが無視した……)
 逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ…
     ↑
 通訳すれば、「大ショック」という意味である。雪が自分をうっちゃらかして島とテレサのところへ行き、そっちで弁当を食べ始めてしまったのが、古代にとってはひどくショックだったのだ。
 誰にでも優しい森さんだけど、俺には人一倍優しくしてくれていたはずだ。なのに……なんで……。

 島は、俺の親友だ。だから、島がモテても俺は、怒れない。
 けど、どうして島がモテて、俺は駄目なんだ……?教えてくれ、森さん…!!
(……坊やだからさ)
 うっかりオタ台詞で自分に突っ込んでしまい、古代は廊下にうずくまった———orz。



 その古代の耳に、どこからかぼそぼそと数人の話し声が聞こえてきた。
(ん…?)
 ふと気がつくと、そこは校長室のドアの前である。
 声はその中から聞こえた。まあ、話し声がどこから聞こえようが不思議でも何でもないのだが、その話をしている人間と、その内容が問題だった。

(そうか…、いくら絵つながりとはいえ、真田の一存で頭王田氏の娘をいきなり転入させるなんて、どういうわけかと思ったら、沖田校長の)
(うむ、…頭王田はワシの古い友達なんだよ、古代)
 校長の沖田と、兄の古代守の声がした。…そして、おそらく美術の真田もそこにいるのらしい。

(…何の話だろ)
 古代は落ち込んでいたのを忘れ、ドアに張り付いて聞き耳を立てた。

(しかし、あれだな)
(うん)
(頭王田の娘、本当に島大介に一目惚れらしいぞ)
(…あの年頃のガキどもにはよくある話さ。一過性で終わるようなもんかもしれん)
(頭王田…、あいつは……あの通り不治の病だからな)
 ……えっ。
 古代は聞こえた言葉に呼吸を止めた。
 不治の病…?
 ボソボソ声は続いている。耳をドアに押し当てた。
(…ありゃあもう治らないな。気の毒だけど)
(そうか、それでこの学校への転入をとっとと認めてやったんですね)
(うむ)


 頭王田さんが、……テレサが、不治の病……?!


(それで…沖田校長が、テレサの転入をすぐに認めた、ってことなのか……!)

 ……大変だ。
 (島は、知っているんだろうか)
 古代は慌てて立ち上がった。



「森さん!森さん…!!」
 教室に駆け戻り、古代は森雪を捕まえた。森さん、頭王田さんをいじめないであげてくれよ…。頭王田さんは、…頭王田さんは。

「え……?不治の病…?」
 それ、本当なの?古代くん?!
 雪は固まった。
 ヒロインの座をかけて、意地でもあの頭王田テレサを蹴落とし島大介を奪ってやろうと思っていたが、それじゃあ……
「俺、聞いちゃった。校長室でさ……可哀想だがもう治らない、って、先生たちが話してたんだ……」
 古代は声を殺して雪に囁く。
「真田先生と、兄貴も一緒に話してた。だから、彼女をこの学校に転入させたんだ、って」
 余命幾許もない娘の我が儘。
 どうせ短い命なら、好きな相手と一緒に居たい。彼と同じ学校になら行きたい、という娘のたっての願いを、聞き入れた。……そういうわけなのね…?

 雪は、机を並べて座っている、島と頭王田テレサの後ろ姿を見た。
(………そうだったの)
 内心、やられた、と思った。究極波動砲だわ……。
 不治の病に罹った、健気な金髪美少女なんて、どんだけアドバンテージ持ってかれてんのよ…クソ。
 だけど。それをオモテに出す雪さんじゃなかった。

(どうせ消える運命のはかないヒロイン……。まあ仕方ないわ。それまであたしが脇役に徹してあげても)

 藁人形を作るのはやめた。肚を決め、雪は古代に向き直る。
「ねえ、古代くん。…このこと、島くんは知ってるの……?」

                     *



(な…なんだろうっ!?森さんがおおおお俺に話って)
 部活(ちなみに何でしょう?w)をさぼって帰ろうとしていた大介は、靴箱の中に小さなメモを見つけて舞い上がった。

<島くんへ。大切な話があります。放課後、一人で体育館の裏へ来てくれる? 森雪>

 体育館の裏だなんて冷静に考えたら穏やかじゃないが、大介はこれが例え雪の名を騙った果たし状だろうと、絶対に行くぞと思った。
 背後でテレサが、一緒に帰ろ♪ と待っている。
 これは外せそうもなかった。
 彼女を隣町の丘の上まで送るのが、毎日の彼の任務となっていたからだ。仕方ない……

「あのさ……、頭王田さん」
「?」
「図書館で待っててくれないかな」
「…?いいですよ?」
「30分くらいで戻るから、この本探しといてくれない?」
「………『波動エンジンとタキオン粒子』と…、『ダークマター航宙図』…ですね?」
「うん」
 ——ごめんね。
 
 ホントに、ごめんね。 ちょっとだけ、気が咎める。だって、森さんに……会いに行く、わけだから。

 図書館へ向かうテレサに、南部がつつつ、と寄って行った。南部は程度をわきまえているから、多分テレサの攻撃は受けないだろう。
(あらあ?いいのぉ?)という顔で、大介の方を振り返る……
 手ぇ出すなよ、と拳骨を作ってみせたが、内心ちょっとホッとした。南部がいい時間稼ぎ(&ボディガード)になってくれるだろう。これがバレたら俺も「真上と真下攻撃」でぶちのめされるのかもしれない。でも、森さんが…2人で会おうって言ってくれてるんだ(いや、2人とは書いてないが)。

 


(ごめん、頭王田さん!)
 大介は後ろを振り向かずに体育館裏へとダッシュした。




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3)世界の中心でナニを叫ぶ