緑ふん純情派 第2話(3)

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(3)世界の中心でナニを叫ぶ


「えっ?」
 ……今、なんて言った?

 大介は、訊き返すと同時に固まった。
 体育館裏の松林、目の前には森雪と、弱り果てた顔の古代。
「……やっぱり、島くんは知らされていないのね」

 ——テレサが、不治の病だってこと。

「不治の病…」
 それは例えば、重度の白血病とか、エイズとか、宇宙放射線病とか、V型感染症とか……?
「何の病気かは分からないけど、とにかく、もう…治らないんだって、校長先生が」
「本当か…?」
 認めたくないけどね、と古代がうなずく。

 大介の目の前が、急に真っ暗になった。



 

「島さん、早かったですね?」
 大介は図書館に戻って来ていた。テレサが南部といっしょに分厚い本を数冊、机に並べている。「ダークマター航宙図」「アンドロメダ時限軌道」「太陽ヨット操縦法」。 でも、「波動エンジンとタキオン粒子」がどうしても見つからないんです…とテレサが申し訳無さそうに言った。
「どうした?島」 
「いや」
 南部がン?と首を傾げたが、答えられない。
「……本は、…いいよ。…ありがとう」

 南部、ありがと。ちょっと悪い。ごめん。


 もう、帰ろう?
 テレサの手を引っ張って、俯いたまま図書館を出た。

 


「…?どうしたんですか?」
「ん?…いや…」なんでもないよ?
 自転車の後ろにテレサを乗せ、大介はあの歩道橋のある通りに向かってゆっくりペダルを漕いでいた。
 テレサは荷台に横座りして、大介の胴に両腕を回している。きゅっと身体に抱きつく白い腕が、急にものすごく愛おしくなった……
「ねえ、頭王田さん」
 キッ、と自転車を止める。
「……なんですか?」

 肩越しに振り返ると、例の奇麗な碧色の瞳と目が合った。嘘を吐いて森雪に逢いに行った自分が、心底嫌になる。……ごめんね、頭王田さん……

「……ちょっと、寄り道しようか」
「え?」

 彼女と最初に出会った歩道橋の袂には、公園があった。
「ブランコ乗らない?」
「え?…いいけど…」
 おかしな島さん。 くすくす笑いながら、テレサは自転車から降りた。
公園には2種類、ブランコがある、一人乗りのと向かい合って2人で乗れる大きなのと。
「…私、得意なのよ」
 地面と平行になるまでぐんぐん漕いで、一番高いところから、空へ飛ぶの!
 テレサが勇んでそう言ったので、大介はあはは、と笑った……「そうか。でも、…君みたいなレディが、もうそんなことしちゃ駄目だ」
 言っていて自分が恥ずかしくなるほど恐ろしくステレオタイプなセリフだが、そう言われてポッと頬を染める彼女が可愛い。

「ねえ、島さん」
「ん?」
「どうして私のことを頭王田さん、って呼ぶの?」
「え…だって」
「……テレサ、って呼ぶのは、いや?」
 上目遣いで大介を覗き込む。彼女のその仕草に、心臓がバクンと鳴る。
(…ずっと森さん命だったけど………今オレは… キミが)
 ううん、いやじゃないよ、と首を振る。

「……じゃ、テレサ」
 すっごく恥ずかしそうにテレサは微笑んだ。
 2人乗りの、子ども用大型ブランコをめっちゃ漕ぎながら、バカップルはお互いに激しく照れまくっていた。

 
 それから。
 丘の下のショッピングモールで、ツーショットのプリクラを撮った。 
 フードコートで、ソフトクリームを食べた。
 ペットショップの子犬を見て「可愛い♪」と笑う彼女を見ながら、君の方がずうっと可愛い、と言いそうになった。
 モールの屋上で、夕陽が沈んで行くのを2人で並んで眺めた……。

 ねえテレサ。君はどうして僕を好きになったの?
 …わからないわ。…好きになるのに、理由がいるの?
 理由、か。
(……俺が森さんを好きになったのには、ちゃんといくつかはっきりと理由があった。でも…誰かを好きになるのって、本来は理屈じゃないよな…)
 考え込んでいる大介の左手を、テレサがすっと取って握った。
 ドキンと心臓が鳴る… けれど、急に思い出す。
(……でも、キミは)
 もう、治らないなんて。……不治の病だなんて。
 テレサを見ている限り、とてもそんな風には見えなかった。だから余計、悲しくなる。

 


 すっかり暗くなった坂道を、丘の上の頭王田邸まで自転車を引いて登った。お城みたいな邸の玄関先には、小さな常夜灯が灯っていてちょっと幻想的だ。
「…遅くなっちゃったね」
 ごめん。
 ううん。楽しかった。島さんが私をこんな風に誘ってくれるなんて、…私とっても、…嬉しかった…!

 テレサは屈託なく笑って、自転車を引いている大介の腕を両手で抱きしめた。

「私ね……島さんが好き。何だか分からないけど、「あなた」が好き。あの歩道橋で、初めてぶつかった時から…。あなたがあなただから、好きなんだ、と思うの……」
「……テレサ……」




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4)僕は…、どうしたらいいんだ!