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無人艦隊の構想を聞いたのは、その直後のことであった。
防衛軍内では、数年前からそれについての計画案が出されていた。かつてガミラスの本土侵攻を予測して作られた戦闘衛星を改良し、無人の攻撃用艦艇を作る。それを量産し、地球の防衛ラインに配置、侵略宇宙人に対抗する計画であった。
計画はヤマトの帰還後ほぼ一月と経たぬうちに着手され、有人基地の一角を占めていた観測センターの建物がそのまま「無人艦隊コントロールセンター」として機能を始めた。2202年末が迫る頃には、古代守がイスカンダルから持ち帰った高度な通信技術(タキオンレーザー波とそれを増幅し送受信を可能にしたアクティヴ型フェイズドアレイ・レーダーアンテナの開発)が整備され、地表からリレー衛星を経て大気圏外に駐留する無人艦隊を格段の速度で動かすことが可能になった。
「無人艦隊の艦艇の動きのベースとなるものは、ヤマトのフライトデータ、つまりお前の飛行データなんだ」
お前が不在だった時のヤマトを、アナライザーが立派に飛ばしたという実績を受けてな。そう真田に打ち明けられたその日のうちに。藤堂長官から呼び出しを受けた島に、辞令が下った。
「島大介、無人艦隊コントロールセンター長の任を命ずる」
真田は、いつの間にか姿を消していた。…古代守の愛娘と共に。島の前に上官——司令本部総参謀長として現れたのは、守である。そして、片腕となる整備長を選べと言われ、島が指名したのはもちろん、徳川太助であった。
新兵を教育するための訓練航海の予定は、いつの間にか反古にされていた。その理不尽さに気付いた者は多かったが、防衛軍会議で行われた審議で訓練航海より重要な決定事項があったことは確かである。幾つかの人事が、極秘裏に異動になり、土星以遠へ探査を命じられた者がおり。
ヤマトへの配属がなければ、また輸送艦隊勤務だろうと思っていた島は、新たな任務にいつの間にか没頭するようになって行った。人員の乗り組むことのない戦闘艦。それが意のままに動き防衛ラインを構築するとしたら。失われる命を最小限に押さえた上で、地球の危機に相対することが出来るのなら。——その思いが、島を突き動かした。
しかし肝心のヤマトは、一体どこへ行ったのか……。あの後、再び出航したという話は聞かなかったが、島の知らぬうちに海底ドックからその姿は消えていた。真田が行方知れずであることと無関係ではあるまい、とは思ったが、与えられた任務の遂行に没頭するうちに、いつしかそれも忘れがちになって行った。
かつてない長期の地上勤務は、島の疲弊した心を癒したに違いない。実家住まいの彼が家族と過ごせるよう取り計らったのが、本部に返り咲いた古代守だったことを、島は知らない。
藤堂の右腕として参謀を務めつつ、守は“弟たち”の去就を気にかけ、藤堂への進言と言う形でそれを表現したのだった。
(…お前を救った、っていう女の愛情は、お前の家族の無事という形で降り注いでいるだろう? それを…噛み締めろ、島)
あとは森と進だな。
まったく、世話の焼ける…弟たちだ。
古代参謀はその日もなかなか帰ろうとしない秘書の森雪に、何度目かのサインを送る。険しい顔をしてみせ、笑いながらウインクし。手でしっしっと追い払う真似をした…
(帰れ。今日こそは早く帰って、進に味噌汁でも作ってやってくれ…)
無人艦隊コントロールセンター、管制室——
「ちっきしょー…あのインギン冷血漢めぇ…!何回やり直せばOK出るんだよ…」
徳川太助が頬を膨らませ、右拳骨で左手をぱんぱん殴りながらコントロール室へ入って来た。
「…それって、島さんのこと?」タキオンレーザー調整パネルに向かっていた相原義一がぷっと吹き出しながら振り返る。
「あっ、相原さん…!来てたんですか」
「来てたんですか、はないでしょ。お前態度でかい」
でかいのは腹だけにしてよね。相原はフン、と鼻を鳴らす……、ま、島さんはああだから。お前ごときがぶーぶー言っても無駄無駄。
「悔しかったら技術で見返せ、って言われなかった?」
「……はい」そのとおりっす。スンマセン。
あははは、と相原は笑った。
「さて、早速それで相談なんだけど」
——相原は稀代の通信技師である。数年前よりもさらに強力で飛距離の長いタキオンレーザー波を変調し、送受信するに関しては、彼を置いて他に適任はいなかった。相原の所属は有人基地だが、リレー衛星へ電波を飛ばす新型発信器の換装から調整は彼の仕事で、ちょくちょく有人基地からここへ出向いて来るのだ。
「なんすか、相談って」
「TR変調波に問題がある。島さんの要求して来る艦隊動作のスピードに、通信スピードが追いつけないんだ。いや、受信してから機動に移る速度が遅い」
「え…〜〜〜〜」
またですか!と太助は呻いた。
「てことは、またあれですか…改造ですか…艦艇の」
「うん、月基地のドックで準備してくれてる」
「あのインギン冷血漢…」
島さんが一旦のめり込んだら、妥協は許されないからねえ、と相原は苦笑した。
「ほら、もう計画書が上がってて、あとは僕らが出張するだけ、にされてるんだよ」命令書の入ったメモリチップを相原が胸ポケットから出す。鬼!悪魔!一体これで何回目なんだよ…とぼやく徳川は、しかしその命令書と作業内容をホログラム動画で見せられ、否応なしに納得せざるを得なかった。
「…島さんは、いつ侵略を受けても大丈夫なように、地球の護りを万全にしたいんだ」
それが分かっているから、僕も…協力を惜しまないんだよ。
そう言って朗らかに相原は笑う。
「そりゃ、島さんって人使い相当荒いと思うけどさ」ま、あの人自身が人一倍、頑張ってるんだもの。嫌だ、なんて言えないさ。
「だからたまには、勤務休んで家に帰れ、って言ってやってよね?徳川?」
「はあ」
太助も、島のデスクの上に置いてある写真立てを見て知っている。年の離れた可愛らしい弟さんがいるのだ。こんなに長いこと島が地上にいるのは初めてなのだそうで、弟さんは毎日、センター長の帰宅を心待ちにしているらしかった。
「じゃ、行こうか」
「……へーい…」
相原と徳川は、連れ立って無人艦隊コントロールセンターを後にした。
だがしかし…。
謎の黒色艦隊の来襲を受け、技術開発途上の無人艦隊はその圧倒的物量の前に大敗を帰した。
「通信速度が追いつかない…!!」
糞ぅっ…!俺が、あの艦隊に乗り組んでいたら…!!
センター員を全員避難させ、負傷しても最後まで残ろうとする島を、徳川が叱咤した。
「島さんっ、行きましょう!!英雄の丘だ。きっとそこに…みんな来ますよ!」
「太助…」
「相原さんが言ってました、島さんの、地球を守りたい気持ちには脱帽するって。…もしもヤマトが健在なら、きっとみんなだって同じ気持ちで」
「そうか……そうだな!」
行こう、英雄の丘へ!
大事な腕なんですから、と言って太助が巻いてくれた右腕の包帯と太助自身を見比べ、…島は頷いた。
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