外がとっても寒いから、まだ陽の高いうちに、と洗濯物を入れていると。
「あーーーおーーーーーー!!!」
「ふぎゃーーーーーーーー!!!!」
すごい声。…あれは一体……何?!
「ああ、…猫だよ」
「…ネコ…?」
ネコって、あの…ガラス玉のような大きな目をした、大きな耳の、ふわふわの……
「そう。…そろそろ発情期だから、オス猫同士が喧嘩してるんだろう」
まったくな、ひとんちの庭先で…。うるさいったらないよ。
島さんが苦笑しています。島さんの家では猫は飼っていないから、あの庭の隅っこで牽制し合っているのは、どこかご近所の飼い猫なのかしら。
「近くへ行かない方がいいよ?」
巻き込まれたら、えらい事になるからね。
けたたましい叫び声を上げて組んず解れつしている2匹のネコ。窓を閉めても突き抜けて来るうなり声。私は心配で、2匹の戦いの行方をじっと見守っていました。
「…どうして、あんな可愛い生き物までが戦うのかしら…」
島さんがぴくっとして、ニューズウィークから顔を上げました。
ああ、そうか…君は戦いが嫌いだったものな。
そこでソファから一言。
「ま、あれも恋のなせる業、だからな。あ、心配しないでいいんだよ。殺し合ったりはしないから…(人間と違ってね)」
「恋のなせる業…?」
「縄張り争いだな。メス猫が絡んでることが多いんだ。どこかそばに、傍観してるのがもう一匹いない…?」
「…暗くて、よく見えないわ…」
——殺し合うわけではない。メスを取り合って縄張争いをする……
でも、それはなんだか理解できません。異性のために、男性同士が争う…だなんて。
「メス猫は、…どうして戦いをとめないのでしょう?どうして、仲良く出来ないのかしら……」
そう思っていたら、島さんがソファから立って、そばに来てくれました。後ろから私をふわりと抱いてくれて、こう言ったんです……。
「そりゃあ無理だろう。僕だって……他の男に君を盗られそうになったら、戦うぞ?」……多分、ね。
「えっ」
「例えば、古代さんとでも、ですか?」
「うーーーん…、古代か」
古代は、あり得ないな……と笑いながら、それでも島さんは「うん」と頷いたのです。古代だろうが真田さんだろうが、君を奪おうとしたら僕は戦うと思うぞ?
それは、愛されているから、だと判断していいのかしら。
今ひとつ、嫉妬とか独占欲といったものが、よく解らない私です…。
* * *
ところで、そんな話をしていて、私はテーブルの脇に置いてある紙袋に気がつきました。大きいのが3つに、小さいのが2つ。
「ああ、チョコレートだよ」
「随分たくさん入っていますね」
最近は次郎にやろうと思っても、あいつも山ほどもらってきやがるからな、やる相手がいないんだ。オヤジも同類だしな……と言いながら、島さんは私の顔を見て笑いました。
「……今日もらうチョコレートって、なんだか知ってるよね?」
「……今日?」
今日は、2月14日。
一通り記憶している、地球…日本自治州の季節行事を思い浮べて。
「ヴァレンタイン・デー?」
島さんが、苦笑を堪えたような顔で、私をじっと見ています。
ヴァレンタインって、……あ。
女の子が、好きな男性にチョコレートを贈って告白できる日…?
「あっ」
ここへ来て、初めての冬だから、私、あなたに何も……
「いや、そんなことはいいんだけどね」
伝統ある行事でもないし、もともと深い意味合いなんかない季節イベントだからさ。だけど、僕はこうして、毎年嫌って言うほどもらうんだよ……今年なんか、もうキミと結婚してる、っていうのにだよ?
「しかもあの袋の中って、全部違う女の子からもらったチョコなんだよね……」
何をおっしゃりたいのかしら…?
島さんの顔が、とってもいたずらっぽくなって。
外で、まだネコのうなり声が聞こえています。
「あの戦ってるネコの気持ちが、君にもちょっとはわからないかい…?」
紙袋の中に入っている箱には、どれも丁寧に包装がしてあって、リボンがかかっていて。島さんのことを本当に心から好きです、という気持ちが、ひとつひとつに込められているような気がして……
「……!」
急に腑に落ちたから、私は耳まで赤くなってしまいました。
「……〜〜〜〜〜〜!!!」
(だめだめ!私の……私の島さんなのに…!)
「あはははは…」
私が思わず口をへの字に曲げてしまったのを見て、島さんが笑いました。
「どうして…頂いて来ちゃったんですか? いらない、って言えばいいのに…」
「だって、職場宛てに箱で届くんだもん。贈り主の分からないものもあるし、もちろん義理チョコも混じってるけど… 随分心のこもったのもあるからさ、突っ返すのも悪いじゃないか」
「〜〜〜〜〜〜〜〜」
(いやいや…そんなの… いやよ… !!)
自分がこんなに心の狭い人間だったなんて思いたくなかったけれど。あの、ネコちゃんたちの喧嘩する気持ちって……恋のなせる業、って。
(やっとわかった?)
フギャーーーーーー!!!という声をまた聞いて、島さんがそう言いたそうな顔で私を見たから、仕方なく。
「………んもう!!」
あなたを誰にも渡したくない…って。
初めて…思いました…
イヤです、チョコなんかもらって来ちゃ!
あなたは、私だけの…島さんなのですから。
でも、そう思っていても口には出せなくて、私は代わりに島さんにぎゅっと抱きつきました…
島さんったら、まだ笑ってる。
抱きしめてくれたって、頭を撫でてくれたって。嫌なものは嫌です。
「大丈夫。…僕は、キミだけのものだから」
笑いながら、またそんなことを言って。
「……島さんの意地悪」
意地悪なんかしてないよ?…人聞き悪いなあ。
「大体、そんなこと言うけど、キミからはもらってないんだぜ?…それはどうしてくれるの?」
* * *
島さんは意地悪だわ、と時々思います。
今日だって、私がヴァレンタイン・デーのことなんか良く知らないってこと、分かっているはずなのに。
それに、ちゃんと話だって、…終わってないのに…
キスを……
あんなキスを、
——するんですもの……。
Fin.
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うぷぷ。 激甘。文字までチョコレート色(爆)。
だって、バレンタインだから。
例によって、チョコの代わりにあたしをどうぞ、なオチでスマン。
アンド、今回の新妻日記は特別仕様。(うぷぷ)
なんと、脳内変換システム付きです。(←脳内で、「私」を好きなお名前に変換して妄想してちょ。だって、このお話の「私」が誰だかは、明記しておりませんので。笑。…でも、絵が入ってるからムリ?w 手で隠したら良いやん?)
しかし、別のオリストでは真田さんにテレサを持ってかれたと思って、落ち込んでたな…島。どっちが本心だろう?(w)
<続きの日記>
※ 追記。
島家に届く大量のチョコは、大介ママが剥いて仕分けして(w)、おやつにお裾分けに、とさばくそうな。…だって、パパも次郎も大介も、毎年3人掛かりでもらって来るから慣れてるってわけです。
(で、翌月14日に苦労してるのがママだったりして。男どもはろくにお返しをしようとしないため、ホワイトデーで一番忙しいのがお母様。……あーあ)w。
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