Jealousy  <1>

 誰が、誰に?(笑)
 時期としては、いつのことだろ(w)ようわからん。島と真田さんが、同じ勤務先(科学局?)に居ますね。…で、テレサは一人で出歩いていますな。
 ま、深く考えないでクダサイ(爆)。あんま、ありえないシチュなんで。(爆)
 ERIにしては、珍しい季節的イベント用です。なので、2月14日頃までにはオチをつけたいです(爆)。

 メインでなんと真田さん&幕ノ内さん、が友情出演。

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「気にすることないよ。随分上手になったじゃないか」

 島さんは、いつもそう言って慰めてくれる。
 レシピに書かれているとおりに材料を揃えて、計って、作っているのだから、そんなに間違いはないわよね、とは思う……
 ところが、たまに次郎が来ている時に同じものを出すと、次郎の方は正直だった。

「………これ、しょっぱ過ぎねえ?」
「あら…そうですか?」
「こっちは生焼け」
「えっ!ごめんなさい…!!」
「…ねえ…なんでこんなにたくさんキクラゲ入ってるの?」
「キクラゲ?いいえ、それはキャベツですけど…」
「(……キャベツ…)」
 気を取り直して別の皿。
「あ!これうまいじゃん」
「……それは…昨日島さんが作って下さったものです…」
「(ぐは…フォローできねえ)…」

 次郎から見たら一皿の半分くらいはキクラゲと化した野菜炒めだったとしても。兄の大介はかならずちゃんと食べてくれる、のだそうだ。
(愛?)
 テレサのことは好きだけれども、さーすがに兄貴ほどは、愛せないわ。
 次郎はそう思って苦笑いする。問題は、テレサがその同じものを食べて、不味いとも何とも思っていないことだった。
(ちゃんとレシピ通りに作ってて、ああなる…てのがどーしても解せないんだけどな〜…)
 次郎は一頻り悩んだ挙げ句、テレサに言った…
「ねえ?テレサ、ってもしかして。俺たちと味覚、違うんじゃないの??」



 こうなったら、頼れるのはこの人しかいない。
 テレサが思いあまって一人で出掛けたのは、真田志郎のいる宇宙科学局、だった。
「は?なんですって?」
「……ですから、その…。真田さんなら、きっと何か解決策を知ってらっしゃると思ったんです」
「はあ…で、何の?」
 テレサが真田に吹っかけてきた難問は、「私、味覚オンチなんです!どうか助けて下さい!」……であった。

 

 単に料理がへたくそなだけであれば、頭脳明晰なテレサのことだ。いくらでも改善できるはずである。だが、問題はそこではないらしい。
 テレサ曰く。自分で味見して、これでいいと思っても。次郎さんにお出しすると「マズイ」って言われるんです…。
「でも、島は美味しいよ、といって食べてくれるんでしょう?」
「…はい。でも」

 おっかしいなぁ、と真田は思った。
 島という男は、それは素直でバカがつくくらい正直なやつで。想いを寄せていた森雪にだって、コーヒーのいれ方が「いつまでもへたくそだな」と言い放ったことがあるくらいなのだ。いくら最愛の妻に対してであろうと、不味いなら不味い、下手なら下手、とそれくらいは素直に言いそうなものである。
「島が不味いと言わないのであれば、それは本当に不味いというほどでもないのかもしれないじゃありませんか」
 だがそうテレサを慰めながら、ふと思い出した…

 努力次第で改善の見込みがあると思えば、正直に文句言いますよ? でも、何度言ってもそれ以上無理なんだと分かれば、オレだってそんな奴を叱ったりしません。

 新人航海班員の訓練で、島はそう言っていた。どうした、お前ともあろう男が随分甘いな、と意見したら、そう答えが返って来たのだ。そして島に航海中ずっと「叱られなかった新人」たちの姿は、次の航海には大抵…なかった。

 限界がもう見えてる連中に、それ以上のポテンシャルは要求できません。俺が欲しいのは、怒鳴れば怒鳴っただけそれに応える力のある奴だけです。

(…とすると、テレサの場合は)

「あの…だから」
 本当に不味いのか、そうでないのか。真田さんに味見して頂きたくて……。

 彼女が手に持っている三段重ねのタッパーを見て、ちょっとおののいた真田であった。


         *            *           *




「…島」
「なんです?」
 翌日。島が出勤してきて、前日の残務処理やら引き継ぎやらが一段落するのを見計らい、真田は早速にじり寄って問題の発生を伝えた。

 ——もしかしてテレサは、我々地球人とは味覚がまるで違うのではないか?

 島は真田の持っているものに気がついた。……見覚えがあると思ったら、うちの台所にあるタッパーと同じだ。まあ、そんなものを見せられれば、何が起きたかは一目瞭然だった。
「彼女、来たんですか…?」
「いつまで経っても上手にならない、と言って悩んでいたぞ」
「……それで味見用のサンプルでも持って来たんですか…彼女」

 そりゃあすいませんでした、と島は頭を下げた。
 三段重ねのタッパーに、何を詰めて持って来たんだろう?真田の顔を見れば、味見してどういう目に遭ったか知れるというものだが。…けど、俺はそれほど困ってないし、彼女の料理だってまあ、…あれで構わないのにな。

「…まあ、そうなんです。果物の一部を除いて、彼女の生まれた星とココでは、おそらく食べ物の味は、かなり違ったんですよ……」
 心配顔の真田に対してへらりとそう言い流した島の顔には「それがなにか?」と書いてあった。もう何年も、俺は一人でその問題と闘ってきましたからね……。今さら、なにを?
「島」
 真田は、心底島を気の毒に思った。もっと早く、なんとかしてやるべきだった、と己の察しの悪さを呪う。
「彼女の場合は、料理がヘタとか味音痴っていうレベルじゃないな。根本的に、味覚自体が違うんだろう…味蕾の作りが違うとか、そういう生物学的なレベルの話かもしれん」
「いいですよ、心配しないで下さい…真田さん。互いの文化を押し付け合っては駄目だということくらい、俺だって分かってますし」

 なにせ、彼女は遠い国からやってきた人なんだから。仕方のないことです。

 島は屈託なく笑った。
「それより…俺はまだ幸せな方だと思いますよ」
「?」
「古代のお兄さん…、イスカンダルへ残ったじゃないですか。お兄さんはどうしていただろう…って俺、よく考えるんですよね…」
「…ああ、守か…」

 古代守の場合は、食生活ばかりでなくすべての生活習慣を、イスカンダル式にシフトして行かなくてはならなかったに違いない。国際結婚、などという生易しいものではないのだ。
「…愛情が文化の違いを多少は中和してくれそうな気がしますけど。それでも時には我慢ならなくなることもあったんじゃないですかねえ。それに較べたら、俺はまだ幸せですよ。彼女の方が、必死になって地球式に慣れようとしてくれてるんですから」
 
 話している島の目尻が、ちょっとだらしなく下がっていた。
(あ、そう…。愛情、ね)
 コイツの場合は、まだ愛情が味覚の違いを充分中和してるようだ。真田はそう思い、苦笑して肩をすぼめた。ただ、毎日あれじゃあそのうち流石の島にもストレスの限界が来るのではないか、そう思ったのでストレートに訊くと。屈託のない返事が返って来た。
「俺は俺で、工夫してますからね、大丈夫なんですよ」
「工夫?」
「…もち、あまりにも料理が酷いときだけですよ?今日はお腹の調子が、とか言って半分残して…で、彼女に内緒で外食してきちゃうんです」
 えへへっ。

 いや…島。
 それ、工夫、って言わんかもしれんぞ。

 真田は笑っている島に、思い切り不安を感じた。自分とて女心に詳しいわけではないが、自分の料理が不出来なばかりに夫が内緒で外食をしていたと知れたら。多分、どんな妻でもゴキゲン、とは行かないんじゃあないのか…?



 その不安はほどなくして的中した……

 数日しないうちに、またもやお忍びでテレサがやって来たのだ。

「……真田さん……」
 目が赤い。
(やらかしたな)
 周到な男だとはいえ。島も詰めが甘い… 
「どうしました?」
 …いつの間に、俺が悩み相談窓口に?そう思いながら、仕方なく執務室の奥の部屋を空ける。どうしたんだろうという顔の局員に「ちょっと奥に行ってる」と一言伝え、真田はテレサを慰めながらそちらへ移動した。
 案の定、テレサは島が「たまに一人で外食してくる」ということに気がついたらしい。島さんに聞いても、笑って誤摩化してしまうばかりで正直に答えてくれません。それは本当は、自分の料理が不味いからなんじゃないでしょうか……(><。)

「いやいや、そうじゃなくてね」
 こんなこともあろうかと、用意していた答えを提供。
「家庭では食べられない類のものって、あるんですよ。屋台のおでんとかね、炭で焼いたヤキトリとか。他所の国の珍味とかね」
「……屋台……」
「そういうのは、例えばあいつのお袋さんでも上手には作れないでしょう。そもそも、屋台で一杯、なんていうのは男同士の付き合いも兼ねてますしね」

 意外そうな顔をしたテレサに真田は、あなたの手料理が不味いから、だなんてことはないですよ。安心してくださいね…と重ねて言い含めた。


 だが、そのうちに屋台で一杯だの男の付き合い、だのでカバーできないメニューが飛び出したりして(島のやつ、胸ポケットに焼き肉定食のレシートを入れていたらしい…しかもお一人様と明記の。粗忽にもほどがある…)、またどうして良いのか分からないとべそべそしたテレサが真田を訪ねる。 そんなことが一週間の間に3回ほど、続いた。まあ、大体のところ、島の失態を真田が良いように言い繕う…という形で済むのだが、どうもよくよく訊くと、彼女はこんなに悩んでいることを夫には話していないらしいのだ。

(あー、この2人だからな)さもありなん。

 お互いを大事にし過ぎてるのか、何なのか。 しかも、この2人の場合、こんな案件では喧嘩にすらならないのだから始末が悪い。
 一見美しいフーフ愛だが、傍で見ている者にとってはかなりイラッと来る状況である。なーんで俺が間に挟まれて、悩まなきゃあならんのだ?

 応接室のソファでめそめそしているテレサを前に、真田は考えた。
 べそかいてる時間があるなら、他にできることがあるだろう。

「ふむ。では…こうしましょう」


 

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