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「ほーら、プレゼントだよん!!」
村正が、白い付け髭のずれた顔で、袋から箱を取り出す。2つ、3つ…8つ。佐渡の持っている袋からも、大小様々な大きさの箱が8つ、いや…9つ、出てきた。
「わあ!!こんなに?」
職員7名と佐渡から、2人に一つずつ。ささやかなプレゼントである……
「こっちは9個あるよ」
「ああ、それは、みゆきちゃんにじゃ」
佐渡が笑って、ピンク色の光る包装紙の、一番大きな箱を取り上げた。
「あら、すみません…」
テレサが嬉しそうに、ありがとうございます、と両手で受け取る。
大介の膝の上に抱かれているみゆきに、「ほら、何かしら?」と言いながら包み紙を開けてみせた。
「ああ!だあ…!」
「あ、ライオン!」
みゆきと美雪が、箱の中身を見て、同時ににっこりした。
柔らかなピンクのパイル地の、ぬいぐるみのライオン、である。優しい顔の、たてがみのあるライオンが、上体を起こして寝そべっている姿。ただ、それはみゆきにはとても大きかった。みゆきが持って遊ぶ、というよりは、ライオンの前足と後ろ足の間の丸く空いたお腹の部分に背中を預けて座るか、もしくは抱き枕として使うのだな、と思える大きさだ。
みゆきは早速、大介の膝から降りるとピンクのライオンに跨がりに、這って行った。
「うふふ」
みゆきが離れたので自由になった大介の胸元へ、今度はテレサが背中を預けてさり気なく寄り掛かる。笑いながら、肩越しに大介を見上げている。大介の方でも、嬉しそうに彼女を見下ろし、2人はにっこり笑い合った。大介の腕が、またテレサの肩に回っている。
(……ほらほら)
美雪が、またそれを見て笑った。
テレサが、そのまま上を見て、頬を大介の唇に寄せるようにした。……あ、チュ、ってするかな?
だが、途端に美雪の視線に気付いたのか、テレサがこっちを見てポッと頬を染めた。同時にこちらに気付いた大介が、苦笑しながらテレサから離れる。そうしながら、テレサの耳元で何か囁いた。
(な〜んだ、もっとくっ付いてればいいのに)
だよね、と妹も相槌を打つ。
うちのパパとママみたいにさ。
職員達も、実のところ島大介と彼のパートナーとの熱愛ぶりには正直もう慣れっこだった。彼らは人前ではそれほど無防備ではないが、2人っきりになったら互いにさぞベッタリなのだろう、というのは想像に難くない。
今ではフィールドパークの職員達はテレサの身の上を大まかに聞いて知っている。異星人であることやその寿命が非常に長いこと…などは彼らにも伏せられているが、彼女自身が際立って特殊な体質の持ち主であり、そのために半ば世間から身を隠して生きることを余儀なくされているのだということは、全員が承知していた。彼らの娘のみゆきが、いつまで経っても成長しない理由も、今では誰も尋ねようとはしない。たった一人、島大介だけが彼女のすべてを知っていて、彼女と娘を守るために防衛軍の要職も名誉もすべて投げ打ってここに居る、ということも、周知の事実だった。
両手に抱えきれないほどのプレゼントを持って、守と美雪が自室に戻る頃には、外はまっ白な雪景色に変わっていた。
「すごいね〜…」
「粉雪だから、きっと積もるね!」
「雪合戦しようよ」
「雪だるま作ろうね」
「そうだ、ねえ村正さん、かまくら、作れる?」
「おう!スコップ、何本いるかな」
「絶対だよ!」
職員の村正とそう約束し、2人は「おやすみなさい」と手を振った。
「……私たちからのプレゼントは…どうしましょう?」
みんなに「おやすみなさい」と告げて、テレサと島も廊下を客間へと戻っていた。
「渡し損ねたな」
まあ、明日にでも。……他にあんなにたくさん、プレゼントをもらったんだから。
「明日でいいんですか…?本当に?」
テレサはそう言って、大介の顔を見上げる。みゆきは、大介の腕の中でもう寝息を立てていた。もらったぬいぐるみのライオンは、テレサが抱えている。
大介は「本当に?」と訊かれてちょっと苦笑した。実は、考えていることがあった。大きな靴下を探すのは案外大変だった…そう、あの重いものを入れて、窓の外にぶら下げることの出来るくらい、大きくて、しっかりした靴下。そんなものはそうそう見つからなくて、大介はメガロポリスの雑貨店を虱潰しに調べたのだ。幸い、あの靴下は、この雪にも大丈夫…耐えてくれるはずだ。
「そうだな…大体、…サンタクロースって言うのは、真夜中に空からやって来るもの、だもんな」
*
守と美雪の、小さなベッドルーム。
「あったかくしとるか」と佐渡が最後に確認しにきたのは、多分もう夜中の12時を過ぎていただろう。
それでも2人は、幸せな気分が抜けずにベッドの中でもぞもぞしていた。
クリスマス・パーティーをしよう、なんて話になったのは、3日くらい前、だった。ずっと前から予定していたわけじゃない、と思う。大人達の都合はどうだか判らないけど、守がこの話を聞いたのは少なくとも3日前、だった。
だが、今日もらったみんなからのプレゼントは、たった3日では揃えることなんか到底無理かもしれない、と思えるような品物ばかりで、実は2人ともちょっぴり胸がいっぱいになっていたのだ。
そして…、みんながこんな風に盛り上げてくれたのは、もちろんふたりが寂しくないように、という心遣いだと判る——
「……パパ、宇宙でクリスマスやってるかな」
「お母さんも…」
……どうしているかなぁ。
生憎、一家がバラバラになって以来、古代家ではクリスマスどころか子どもたちの誕生日さえ、祝えない状況が続いていた。最後の通信は、もう10日以上前になる。宇宙へ訓練に出ている母の雪から、そして父の進から別個にメッセージが届いて、それきりだった。
きっと、…クリスマス、やってるよ。パパも、ママも。
美雪がそう呟いたので、守は目尻に浮かんだ涙をぐしっと拳骨で拭いた。一番いて欲しいお父さんと、お母さんがいないクリスマス。今だったら、例えお母さんからのプレゼントがノート一冊でも消しゴム一個でも、泣くほど嬉しい……と思ったことは妹には内緒だ……
「ねえ、お兄ちゃん?……今日もテレサと島さん、らぶらぶだったね」
美雪がこちらに寝返りを打って、今度はそう呟いて笑った。
でもさ、なかなかチュ、ってしないんだよねー…恥ずかしがりだよね。
それに、テレサってさ…… ママみたい。
パパのことが、大好きなのとかがさ。
「うふふふ…」
美雪が嬉しそうにそう笑ったので、守も思わず笑った。
「そうだね」
島さんと、テレサがいるから。……寂しくなんかないよね。
3つの頃以来、父とは離れ離れだ。だから、お父さん…が本当はどんな人なのか、守も実のところはよくわからない。だが、大介がことあるごとに「お前のお父さんならこうするぜ」と言うので、守は大介の姿を通して、父の姿、仕草、時にはその言葉さえ容易に想像することが出来た……
大介と勉強している航法シミュレーターや、シューティングゲームみたいな射撃シミュ、難しい理論を視覚化するための演算も、同じことをお父さんとお母さんがやっていると思えばそれは、守に取っての「遊び」だった……お父さんと遊んでいる。お母さんと遊んでいる。そういう感覚なのだった。
そして、金色の長い髪が、お母さんを思わせる優しいテレサ。料理がどうにもへたくそなのに、2人に食べてもらおうと一生懸命工夫する姿が、そのまま母の雪を思わせた。
なにより、島とテレサの2人が照れくさいほど仲が良い、その様子を見ることが、守と美雪にとっては至福の思いだった……家族が一緒にいた、幸せだったあの頃を思い出させるからだ。
守は、うとうとしながら思った。
サンタクロースがいるんなら、プレゼントなんか要らないから、…あの頃に時間を…戻して欲しいな……
うふふふ、とまた美雪が笑った。
何笑ってるんだ?と半身を起こして妹の顔を覗き込むと、美雪はもう瞼を閉じている。幸せな夢を見たまま、眠りに落ちているのだった。
「おやすみ」
呟いて、守も目を瞑る。
……テレサってさ…… ママみたいだよね。
パパのことが、大好きなのとかがさ。
美雪がそう言ったのを思い出し、守もふふっ、と笑い。……眠りに落ちた。
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