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「…で?結局、今晩島さんたちは艦長室なんですか?」
「ああ」
「……あそこって、上からだと丸見えだよな……」
徳川の問いに、相原がふと思い出したように呟いた。
「馬鹿」
真田が吹き出す。
「こんなこともあろうかと、さすがに今晩ばかりは上空にうっかり訓練機なんか飛ばないように、本部へ要請してあるさ」
太田が溜め息を吐きながら怒ったように呟く。「…ねえ、島さんをネタにするの、やめません?」
「あはは」と南部が笑った。
こういう悪ふざけを古代はたしなめない。島がみんなに好かれている証拠だと分かっているからだ。
雪が、陽の傾いた茜空を見上げて言った……
「奇麗ね…」
この夕陽も、なにもかも。
テレサのおかげで、見る事が出来る。
あの時、私たちはテレサに、“未来”を与えてもらったんですものね…
あの人がいなかったら、今頃地球は地球ではなかったわ。どんなに高価な贈り物をしたところで、私たちはその恩を返すことは永久に出来やしない。あの人が私たちにくれたものほど素晴らしい贈り物はないでしょう?
もっともだ、と全員が頷いた。
地球は幾度も全滅の危機に晒された。だが、中でももっとも多くの犠牲を強いられ、もっとも厳しい戦いとして皆の記憶に残るのが、白色彗星戦役だった。圧倒的なテレサの力がなければ、人類やこの星そのものも、ここにこうして在ることは叶わなかったのである。
「これで少しは、テレサにお返しが出来たかな…」
古代も、そう頷いた。
「まあ結局、金目のものはボクのところで出す感じなんでしょうが…」
南部がそう笑いながら言ったが、今回の式とパーティーについてはその限りではなかった。それぞれが、現在のポジションで出来得る限りの協力をし、奔走して作り上げた「ありがとう」なのだった。
「そう言えば、テレサも、島くんに何かプレゼントする、って言ってたわね」
「ふうん?」
何をあげるんだろうな?
古代の問いに、雪はさあ?と考え込んだ。私には何もないから、何も差し上げられなくて本当にごめんなさい、…と雪にも言ったテレサなのだ。確かに、着るものから食べるものから住むところまで、彼女は自分で用意できるものなど何も持っていない。
(でも、……きもち、でいいのよね)
雪はそう考え、うふふ、と笑った。
茜色の空に、はるか上部の艦長室のシルエットが浮かび上がっている。
島の家族を先頭に、一同は港に向かうランチに乗り込む。振り返って見上げても、落ちる陽光に反射して光る丸い天蓋の他は、そこには何も見えなかった。
* * *
吃水線から数十メートル上空に位置する艦長室からは、白い航跡を引いて遠離るランチが見えた……今、ヤマトの艦内には本当に島とテレサの2人だけだった。
茜色に染まった水平線を、2人で並んで眺めた。
陽光が煌めいて群青色に変わる瞬間を、一緒に見つめた。
足元の青い非常用ライトが、日没と同時に自動的に点灯する……
話したい事はたくさんあるのに、言葉が出て来なかった。
島は、抱いていたテレサの肩を、改めて強く抱き寄せる。
もう、どこにも行かないね。ずっと一緒にいてくれるね……?
その問い掛けは、もう何度も何度も投げかけているものだから、殊更ここでする必要などないと分かっている。だから、島は黙ったままテレサを見下ろした。
私は、ここにいて…いいのですか。
あなたのそばに…いてもいいのですか……?
テレサのその問いも、もう何度彼に投げかけたか、分からなかった。彼の答えは分かっているのに、何度でも訊きたくなってしまうのは、なぜなのだろう……
肘まである、長い手袋をテレサはそっと外した。左手の薬指には、彼と同じ指輪がある。手袋を外した左手で、島の左手を握った。触れあったリングの立てる微かな音が、空に瞬き始めた星の煌めく音にも聞こえ。
2人はどちらからともなく微笑み合った——
「島さん…」
「なに…?」
抱きしめた腕の中の彼女が、恥ずかしそうに少し、俯く。
「……箱にリボンをかけるのは、贈り物だと言う事を表すのですって、雪さんが」
ああ、そうだね…。
「素敵な習慣だと思いました…」
可愛いことを言うよな、と島はまた微笑んだ。本当に、彼女は可愛い。ものすごく大人びたところがあると思えば、時々たまらなく可愛らしい事を言う…。で?それがどうしたんだい…?
「だから、あの……」
急に頬を染めて、テレサが俯いた。
はにかみながら、右手の手袋を外す。手首に何か、青いものが結びつけてある。……リボンだった。
「あの、私には…なにも差し上げるものがありません…でも」
あなたに……私のすべてを上げたい。
だから、「自分」にリボンを……。
(………テレサ)
言葉が出なかった。微笑んだまま瞬きし。島は何秒か、考える。
……こんな事をキミに教えたのは、一体誰だい……?
いいえ、誰に教わったのでもないわ。私が自分で考えたんです……
「あ、あの。素敵なアイデアだと思ったのですけど……?」
駄目でしょうか、と心配そうに言ったテレサに、心から愛しさがこみ上げる。
冗談、というわけではなさそうだった。彼女は大真面目なのだ。
……これが君の、魅力、なんだな。
「……大好きだよ、テレサ」
「…島さん…?」
「愛してる!」
声を立てて笑い出した島が、ぎゅう、と自分を抱きしめたので、テレサも思わず笑顔になる。
「……ありがとう。僕の人生で、一番嬉しいプレゼントだ!こんなの初めてだよ」
抱きしめた腕の中で、テレサが「本当ですか?!」と安心したように笑った。
「ああ。大事にするよ、一生」
「……島さん…!」
躊躇っていたのが、吹っ切れた。気恥ずかしさに、この部屋で彼女を抱こうなんて思えなかったが、気が変わる。
島は白いドレスの腰を抱き上げた……
せっかくのプレゼントだものな。
抱き上げた花嫁をベッドに運ぶ。ドレスが羽のように膨らんで、蓮の花びらの上にいるみたいだと思った…… その花びらの上で、キスをして。そして…もう一度微笑い合った……
テレサ…、愛してる。一生、大事にするよ…
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<エ〜毎度おなじみ、言い訳でやんす・w>
…………自分にリボン。よく昔、ユキだの陛下だのが、ハダカにリボンかけて「アタシをア・ゲ・ル」みたいなのが絵チャとかで流行ったな………(爆)。
このところ、「まっとうLOVE」にハマっている自分がおります…一体どうしたんだ(w)?
「奇跡」の番外編の「約束」とゆー短編(めっさ分かりにくいところに置いてるので、読んだ人少ないと思うんだけど・w 実にベッタベタの「まっとうLOVE」短編です・爆)で、テレサは島から指輪をもらいました。さて、島の方は、指輪ってしてるんでしょうか。今まで、ERIのラノベの中ではその描写をしていませんでしたが……
どうなの?
感覚的に、夫が結婚指輪をするってことにあんまり頓着しない方なんですが…ERIは。だって、案外指輪って付け慣れていないとウザイよね…?女の私ですらそう思うんですよ、男性だったら尚更では?
実は、自分も結婚指輪はしていません(つか、もらってない!!いらん、と言ったらホンキにされてしまったもんで。だから、夫も指輪なんぞしてませんし、持ってもいない。…ついでに言っちゃえば、結婚式自体してません・爆)。
しかしですね、几帳面でけじめまくる島のことです。指輪、してるんでしょうね……(w)。島とテレサのカップルだったら、結婚指輪している、っていう状態になんかユメとか憧れを感じるなあ〜♪ 笑。
しかし、ギャグなんだかマジメなんだかわからん短編ですいません。
どうも辛気くさくなりがちな(w)島とテレサの恋愛話を、笑って読んで欲しかった…(もちろん本人たちにも笑って欲しかった)からなんですよ。
それと、どうでもいいことですが(w)、この話の中ではなんか島、自分のことをテレサに対して「僕」と言っています。最初は「ボク」だったんだよね(w)。それがなぜか、「奇跡」で再会する頃には「俺」に。まあ、そのうち古代みたいに嫁のことは「お前」になるのでしょうか(w)。
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