だああああ…
思いっきり浸ってしまった。
うっかりここを見つけてしまったアナタ。運がいいのか悪いのか…?(笑)
このディーバ1903に、ポセイドンとヤマトは約一ヶ月滞在していました。
この短編<bye bye DIVA>の中で、さらに書き飛ばした一ヶ月が存在するのですがぁ〜〜、ここ、「まっとうらぶ」を描くには、ひっじょーに美味しいポイントなのね…お分かり?(ジャック・スパロウの口調でドゾ・w)
とゆ〜訳で、島くんとテレサの「まっとうらぶ」に浸りたい方には、うってつけの短編です。浸ってクダサイ(爆)どっっぷりと。ただし、「まっとうらぶ」なので描写的には健康的です(爆)悪しからず…
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<約束>
=1=
彼女、まだ熱が高いから、しばらくしたら水分補給をね。それから、島くんが病室を出る時には彼女の検温をして、ボードに入力して行ってくれる?必要なら安定剤がケースの中にあるから、飲ませてあげてね。それから。ここのロックは、あたしが管理して行くから……
そう耳打ちして、雪が皆の最後にテレサの病室を出て行ってから、まもなく。
…島は改めて、長い溜め息を、全身で…吐いた。
「…島さん」
ベッドの上で横になっている儚気な彼女が、呟いて微笑った。彼と同じように、安堵の溜め息を漏らしながら……。
「艦長のお仕事を、…妨げてしまいますね。…ごめんなさい」
まさかの台詞。こんなときにまで、君は。
「…仕事のことなんて。…まったく君ってひとは」
この期に及んで、テレサが自分を抑え、迷惑をかけまいとしている事実にやるせなさを感じる。一体、君は本当に俺のことを好きなのかな。好きだとしたら、どれくらいなんだ。俺は、…俺自身は、我を忘れるほど君が好きだって言うのに……。
肩に羽織っていた艦長服の上着を、バサリと下ろした。
…こんなもの。
丸めて、隣のスツールに乗せる。腰の銃とホルスターは、さっき仮眠していたから付けていなかった。
「俺もまだ、貧血状態らしい。佐渡先生が当分通常業務には戻るな、と言うんだ。だから、しばらく…ここにいてもいいかい…?」
横たわる彼女の白い手が、枕元からふい、と持ち上がった。
その手を握る。…熱い。
「…背中、痛いだろう」
無理するな、と言いかけたが、すがるような瞳に言葉が止まった。肩から腕を持ち上げるのすら、背中の深手のせいで辛いに違いないだろうに。テレサは小さく呻きながらこちらへ手を伸ばす……。そうか。
「テレサ」
言葉では、仕事の邪魔をしてごめんなさい、と言うけれど……本心は違うんだね。
ベッドの上にかがみこみ、のばされた腕を受けとめた。テレサは傷ついた上体を起こして、島の首にすがる……5日以上意識が無かったその身体に走る痛みに、ああ、と声が漏れた。それでも、彼女はこうしたかったのだろう……
出会ったあの時から、このひとはそうだった。
抱きしめて欲しい——
君は、その思いをずっと閉じ込めて生きてきた…、俺にはなぜかそれが分かった。
抱擁を。
……君の孤独を癒すのに、きっとそれは、必要不可欠なものなんだな。
俺の胸に抱いてやって、それで君が心安らかになれるのなら…いくらでも。
「でも…そんな姿勢じゃ、辛いだろう?」
大丈夫、抱いていてやる。
離さないで、というように切ない目を上げたテレサに、にっこり笑って頷いた。
俺も、……安心したからかな……。
横になりたい、いいだろう?
彼女の頭を腕にのせ、その身体を抱いたまま、そっとベッドに横たわる。
シングルベッドで添い寝か。
……なんだか、…甘酸っぱいな……
そんな風に思い、思わずくす、と笑った。
雪を信用して、しばらくは…こうしていよう。この部屋のドアは、誰も邪魔をしないように…あたしがロックを管理するからね。さっき、最後に出て行った雪は、確かにそう言っていたから。
島の胸に頬を埋めたテレサは、痛みに緊張させていた身体をほぅ、と弛緩させた。ぎゅうと抱きしめたいが、そうはいかない。彼女の背中には、まだ大きな傷があるからだ……だが、テレサはそれですっかり安心したようだった。
まるで次郎が小さかった頃みたいに…その頭を優しく撫でてやる。すると彼女がまた、泣きそうな溜め息を漏らした。
華奢な手の甲には血管確保用の点滴針が入っている。バンテージで巻かれたその手に気を付けながら、島は彼女の左手にまだ光っている銀色のリングをそっと撫でた。
バイタルコントロールシステム。管制用の発信器が組み込まれたリングだ。…野暮な指輪。
「……こんなのじゃなくて、もっと奇麗なのを…あげるから…」
だが、君がこれを付けていたから…
俺は…見失わずに済んだ。
2度とそうならないように、そう祈って贈ったリングだった。だけど、もう…
「発信器なんか、もう必要ないね…?」
自分の胸に突っ伏している、美しいひとをそっと覗き込む。
「……テレサ。もう、…どこへも行かないね…?」
繰り返し、聞かずにはいられなかった。
我知らず、目尻が熱くなっていた……まったく、君ってひとは。
彼女が、たじろいでゆっくりと目を上げる。
「…島さん」
君が…あの白色彗星の母艦に独りで戦いを挑んで行った時。…もしも、俺の意識があったとしても。君はきっと…俺を残して、行ってしまったんだろうな。
どうせあの時、俺は死んだと思われていたんだ。
一緒に連れて行って欲しかった、俺は永いこと…そう思って君を恨んでいたんだよ。
それなのに。
また、…同じことを。俺を残して独りで、…君は。
「島さん…」
間近にある、愛しい彼の表情が僅かに曇っている。まさか、…泣いているの…島さん?
私は……永いこと、たった一人で生きて来た。
話を聴いて欲しい。誰かと笑い合いたい。友達が欲しい。…そして、誰かを愛したい…愛されたい。
想像を絶する殺戮の悪夢と戦う日々の中で、多少なりとも理性が保てていたのは。微かにであっても、そういう願いが残っていたから。けれど、そう思いながらも私は、表情を自ら殺していった。笑うこと、楽しむこと、愛すること…そのすべては私には許されないことなのだと、ずっと思って来た。
あの時も……自分が滅ぼす人々の魂の購いとして、私は自らの命を投げ出したのだけれど……。
そのためにあなたが悲しむだろうか、あなたが苦しむだろうか……そんな風には…考えなかったのです。
「……ごめんなさい…私」
愚かなことを、繰り返して。
あなたを、また……苦しめてしまったのですね。
「謝らなくてもいい。……あんなことは二度としないと……約束してくれれば」
「……島さん」
こくりと、頷いた。
島さんは…優しい…。まるで、お父様のよう…。
私は、だから。あなたに初めて出会ったあの時から、あなたにこんな風に抱いて欲しいと……思っていたの……——。
「約束してくれるね?」
彼が、再び訊いた。
「もうどこへも行かないでくれ。…俺を置いていかないでくれ…」
ああ、やっぱり。
島さんは、泣いていた。
傷なんか、平気です。もっと強く、抱きしめてください…
もう二度と、どこへも行きません。あなたを離れたりしません——
「どうすれば…信じてくださいますか…?」
まだ不安そうな彼に、そう言ってみる。思わず頬を擦り寄せた彼の胸は、逞しくて、包み込むようで、泣きたくなるほど温かい……
「…愛している、と…言ってくれ」
彼の声が、体温を通して柔らかく響く。
「……愛しています」
「…俺と、結婚する、と……」
二度と、離れないと…。
——結婚。
にわかに記憶の螺旋がくるりと輪を描き……7年前の一瞬に戻る。
母の形見のリングを、…私の指にそっとはめて。
照れくさそうに、彼……宇宙戦艦ヤマトの航海長、島大介さんは笑ったのだった。
<……僕は一生、君だけを愛そう…>
あの碧の宮殿で……。
言葉ではなく、意識の流れで、彼はそう私に伝えてくれたのだ。
「結婚…します。…愛しています、島さん。愛しています…」
彼が黙っているので、私は何度も繰り返した。聴いていてくれなくてもかまわない。伝わっていなくても。…そう思いながら、それでもこう繰り返した時のことが甦る。
愛しています、…愛しています、島さん…。愛しています……
「…テレサ」
島さんの声が、掠れて、震えた。あなたが返事をしなかったのは…泣いていたからなのね……
——テレサは島の胸から顔を上げた。
「もう二度と、一人ではどこへも行きません」
「……うん」
頷く彼の目から、また新たに光るものが零れた。
詫びるように、宥めるように……キスを。背中の傷が、また少し疼いた。けれど……
ぎこちなく片腕をのばし、島の首を抱いて。
テレサは自ら、その唇に口付けた。
テレサ。
……俺は、やっと…生き返ったよ。
君を失った時から、ずっと…多分ずっと、俺は死んでいたんだ。いつ死んだってかまわない、いつでもそんな気がしていた…だから、何も怖くなかった。観測も無しにワープするような愚かな真似もした、銃撃戦にも出て行った。どうせ一度は死んだ身だ。君に連れて行かれてしまった魂だった。
だけどね…今は。
怖いんだ。
何かあったら。君を守れなかったら…。
……そう思うと、堪らなく怖いんだよ。
「愛してる。…二度と、離さない…。もうどこへも、行かせない…」
「島さん…」
——約束します。
二度と離れません。
「もう…独りでは…生きていけません…」
「俺もだ」
そして…ふたり、唇から溶け合うようなキスを。
その時間が、永遠にも思われた——
碧の宮殿の思い出、激しい光芒の記憶。身を焦がすような痛み…そして深い喪失。しかしその全てを越え、奇跡は甦る。
生きている…あなたも、私も。
愛している……永遠に——。
=2=