感想文(9)

******************************************

 

<女王イリヤの野望>

 野望(w)。
 どうですか、ERIにはそういう風に見えたんだけど。
 地球人から見るとイリヤは「まるでスターシアみたいに渡りに船、的な援助をしてくれる女王様」ってところですが、彼女の意図はかなりはっきり見えていますよね?

 スターシアがコスモクリーナーを与えてくれようとした動機には多分にお釈迦様的な匂いがしていて、深くは考えなくてもよかった。でも、イリヤの場合は明らかに違います。

「彼女、独立戦争したくてしょーがない!!」んですよ。

 も、SUS、ヤなんですよ。蜂起したいんですよ…、戦いたいの。それが如実に解るのが、パスカル将軍とのやり取りです。
 が、まずは表敬訪問に来朝した古代との会話を傍受してみましょう…またもや、バルコニーです。王宮のね。眼下に港と、中東を思わせる石造りの大通りが見渡せます…褐色の肌に高貴な顔立ち。多分、あの大振りなティアラを取ったら、ベリーショートの黒髪なのでしょう、女王イリヤが呟くように語ります。

 この星域では幾世代もの間星間国家による戦いが絶えませんでした。その戦を終わらせ、平和を先導したのが当時もっとも大国だったSUSです。このアマールも名を連ねる星間国家連合ではSUSが主導権を握っています。しかし、それは平和とは名ばかりの、非道な支配なのです……
「我がアマールは、SUSに資源を提供しています。この星にしかない資源の提供、その見返りに私たちはSUSの庇護を受けていますが、…これが真の平和と言えるでしょうか…」
 
 …実は、試写会の時。Nプロデユーサー、SUSのモデルがU★Aだってぶっちゃけていらした……(おいおい)。そして、どう見ても中東諸国のカンジの否めないアマールの街並、住民の見てくれ。
 現在の、世界の軍事力・経済力の均衡を保っているSUSのモデルとなる某国に、そりゃあまあ物申したい気持ちが解らなくはありません。思い遣り予算とかね。そんなことより働くお母さんの支援やら介護職の給料賃上げやらに予算を使えよ、と混ぜっ返し始めると、削減すべきはその某SUSへのお小遣いだろうがよ、と毒も吐きたくなりますが。……ええとなんだっけ?ヤマトの映画だ、いっけねえ忘れてた……(w)まあ、その根底にあるNプロデューサーの恣意についてはちょっと横に置いとくとして。

 イリヤです。
 地球の移民を受け入れることでアマールがさらに科学力・軍事力を向上させることが可能になる、と彼女が思えば、確かに星間連合の議決を蹴ってでもヤマトに味方しようと思うかもしれません。ヤマトが到着するまでの間に、パスカル将軍が代理出席していた議会では、『地球人は侵略者なのでその艦隊を発見したら即刻攻撃』という議決が出されていたわけです。にも関わらず、イリヤは地球艦隊を受け入れた。
 SUSがアタマに来て警告に来るか、悪ければ攻撃して来ることさえ、もうとっくに覚悟していたんでしょう。

 一方、苦労人パスカル将軍は、「地球人を攻撃せよ」という星間連合の議決を知っているわけですから、はっきり言うと女王と地球人との板挟み。中間管理職の悲哀ってやつです。

(パスカルさん心の声)……オレは独立のためとは言え、女房子どもと年寄り抱えて全面戦争なんかしたくないんだよ、41歳の春なんだよ、だけど、あのSUSのメッツラーにはもう知られてるに違いない。ここはもう悠長にかまえてらんねー、こりゃもう、あのヤマトの艦長を取っ捕まえて、即刻退去勧告するしかないよ…)


 女王は聞く耳持ちませんからね。もうこうなったら、地球艦隊司令に直訴して出てってもらうしかないでしょう。
 そこで、王宮の廊下で古代を捕まえました。
「古代艦長、頼む、この星から退去してくれ!あなた方を受け入れれば、我がアマールはSUSの制裁を受けることになる。下手をすれば、この星ごと無くなってしまうかもしれないのだ」

 うちのボスはあんなこと言ってますけどね、今うちの星はめっちゃメンドウな立場に立たされてんですよ!このままでは星間連合の制裁を受けるかもしれない。頼むから、即刻出てってくれないかな!
 そりゃあね、ちょっと前にお宅の若い人たちが来て、月を居住地にしても良いですかと言ってきた頃は、まだ良かったんです。ウチは開発途上の惑星だしね、戦艦だってスターライトだしね。(ん?)でもまさか、アンタたちが銀河系オリオン腕ではめっちゃ有名な戦闘国家だとは知らなかったんですよ…いやはやメーワクな話だよ、…え?いやこっちの話。
 けど、うちのボスは知ってたみたいなんだよね、地球の技術を輸入できれば、ウチは飛躍的に技術革新が計れる、ってボソボソ独り言言ってましたからね。しかも、あんたたち「ヤマト」で来ましたね??アレ、ネームバリュー、ハンパないんですよ??解ってます??おかげでウチのボス、やる気マンマンだよ……どうしてくれんだよまったくよ〜、オレ半泣きだよモウ!


 ……と思ったかどうかは知りませんが(笑)。

 そんなこと言ってるうちに、王宮付近で爆発音が…。爆撃です。
「…遅かった…!」
 パスカル将軍の動揺を、どうして良いか解らず見守るだけだった古代ですが、いよいよ相手は進退窮まって来た様子。
「ここから即刻退去してくれ!そして、決して手出しはしないで欲しい…これ以上、我々を窮地に追い込まないでくれ!」
 そう言い残し、将軍は部下と共に立ち去りました。

 俺、どうしよう。

 このシーンでは、ずっとそんな顔をしていた古代君ですが、ここにきてようやく、敵の背景にも色々あることが解って来たようです。このアマールは往路に攻撃して来た艦隊の同盟国で、各同盟国の頂点となるSUSってのが地球を敵視しているわけだったのです。少なくとも、連合国の一部、このアマールとゴルイ提督率いるエトス軍は、「話せば解る」ヒトタチでしょう。ですが、今問題になってるのは最大勢力のSUS国。しかも、SUSの要求に従わなければアマールもエトスも制裁を受けるかもしれないって…?
 外では爆撃が始まっています。
 あれがパスカル将軍の言う、「制裁」だとしたら…。
 
 古代進、これまでの人生で一番考え込んだ事態じゃないでしょうか。

 




「あいつらだ…!!」
 ヤマトの第一艦橋では、アマールの首都上空を紅蓮に染める戦闘機隊を見つけた上条がいきり立っています…「第一次船団を襲った奴らだ…、総員、戦闘準備っ!!」
 上条の気持ちは解らなくはないですが、コバが待ったをかけます。
「またおめーは…二言目には戦闘用意って、それを決めるのは艦長だろうが!」 落ち着けよ、どうやら奴らは俺たちじゃなく…あっちの都を攻撃してるんだ。なんでかな。
 理由なんかどうだっていい、それならそれで、援護に出るぞ!
 上条、もう見境無し。

 そこへ戻って来たのか艦長の声が…。
「総員、戦闘配備のまま待機せよ。我々の決定がアマール国に大きな影響を与えてしまう。…不用意には、飛べない…


 艦長!!あいつらを見逃すんですかっ!!
 猛り狂ってる上条には何も応えず、古代はそのまま艦長室へ。
 成す術もなくアマールの首都に上がる焔を見つめるクルーたち。第一次攻撃が止んだと思う間もなく、次の攻撃が始まります…

 

<漢・パスカル将軍っ!>

 ここで、カメラはアマールの市街地へ。白熱のゲリラ戦。アマールの市民たちは、ただ怯えて逃げ惑うのではなく、徹底交戦します。武器弾薬、この時のために備えていたみたいです。
 特筆すべきなのは、市民たちがこの理不尽な攻撃を「ヤマトのせいだ」とは思っていないこと。王宮の広場に避難して来た母子や年寄りまでもが、「ヤマトのせいでこんな目に遭っている」とは感じていない様子が描かれます。…余程、酷い圧政を敷いていたんでしょうか、SUSてのは?国民総出で、地球の受け入れに賛成していて、ヤマトがきたんだから、もうやるっきゃない!!と思っているように見受けられましたが…。

 その中で、やはりただ一人、苦悩の表情を見せていたのがパスカル将軍です。将軍、という高位の軍人でありながら、実はこの人は一番平和を望んでいた人でした。イリヤが「待ってました」とばかりに地球の受け入れを決定した時、彼はイヤ〜〜な予感がしていたに違いない。そして、メッツラーからのお達しがあったにも関わらず、女王が独立戦争やるぞと決意を固めているのを知った時。それでもパスカルさんは戦闘を回避したかったのでしょうねえ。市街地で市民がゲリラ戦。でも、彼は王家の兵をまだ出撃させずにいます。末端の兵たちは加勢に出て行きましたが、自分はまだ意志を固めていない…

 ERIは、彼が弱虫だとか腰抜けだとかは思いませんでした。もしかしたら、今回のヤマトの映画で一番、本当に平和を望んでいてその上一番勇気のあった人だったんじゃないか。そうも思います。

 彼はこの後、ゴルイがメッツラー艦マヤに突っ込んで戦死するのを目の当たりにし、もう後へは引けない状況であることを認識します。そして、決意したら、その後は見事でした……だって、特攻とかじゃないんですよ。無駄死にするつもりはきっと微塵もなかったでしょう。ですが、彼はSUS の武器の威力を知っていた…だから、自分の艦のシールドでヤマトを守ったわけです。しかも、僚艦もちゃんとそのシールドの中に入れています。……結果的に、持ちこたえることは出来なかったわけですが…。


 特攻という死に方は一見して華々しく天晴れなようですが、残される者のことなんぞ考えてないところがバカヤロウです。自分に酔っていないと出来ない究極のスタンドプレイ。(現実に第二次世界大戦で米艦隊にスーサイドアタックした神風特攻隊、を愚弄するわけではないですが、アレを天晴れとは言いたくないですね。申し訳ないんですが)そこへ行くと、パスカルさんはきっとそうじゃなかった。生き残って、待たせている者たちのために辛苦を舐めても生きるつもりでいた男です。それでも、その気持ちがヤマトを守るのに彼を躊躇させることはなかった、その点で、ものすごく見事な人でした。
 ERI、このパスカルさんに関してだけは、ヤマトの西崎Pにしては見事な生き様の軍人を描いてくれたな、とちょっと感心した次第です。ゴルイさんよりね、すごい軍人さんだと思うのよね。CVは井上和彦さんでしたね、ハイ。

 



 時間は刻々と経って、ついに夕刻…。
 古代くんも偉いです。
 真っ昼間から、夕陽が沈むまで、丸一日じっと戦況を見守ってました。何時間??よく耐えてましたね。途中、ユキの写真(というか、親子3人で撮った家族写真)に心の中で相談してみたりしてたけど…
(我々を受け入れることで、アマールはSUSから制裁を受けている。しかし、我々地球人類はこの星の衛星に移住することが出来なければ、滅亡してしまう。…この俺の判断が、地球とアマールに大きな影響を与えてしまうのだ…)

 雪、俺は、…どうしたらいい…?
 
 古代の心の中に、あの優しくも気丈な声が響きます。
 ——古代進。不当なことには決して屈せず、正義を通した…それがあなたの生き方だったわよね。そして、それが…ヤマトとともに地球を守ったのよ……



 そしてその時、古代の決心を促すような出来事が起こります……

 アマール上空に現れたゴルイ艦隊。彼らの船に、先ほどから市街地への攻撃を繰り返していたSUSの旗艦マヤのメッツラーから、「アマールへの制裁に加わるよう」要請が。
 突っぱねるゴルイ。ムッとするメッツラーに、「ブタと交わってブタに成り下がった己に気付いたのだ」と毒づき。ゴルイは港に停泊するヤマトへ通信を送ります……



「エトス艦から入電!!」

 

 

*************************************

(10)

やっちゃったよ古代クン>へつづく