約1ヶ月後——
数名の乗組員を除き、部隊員のほぼ9割が稼働状態に回復したのを受け。第一次特殊輸送艦隊はディーバ1903から地球へ向け、帰途に着いた。
「客室にいるより、退屈しないでしょうから。ぜひ、どうぞ」
そう島に言われた司和也は、第一艦橋にいた。
艦橋自体、10年前に乗り組んだ<きりしま>とは雲泥の差だ。見慣れぬ計器、驚嘆すべき“波動エンジン”、そして自律航法システム<アルゴノーツ>。よもや光の早さを裕に越えた亜空間航行が常識となっているとは…。
「…あたしの腕前、ちゃんと見ててよね?お兄ちゃん」
「こいつ」
花倫はメイン操舵席にかけ、左のサブ操舵席に座る兄を見て、にやっと笑う。右には大越が、人なつこい笑顔で座っている。後ろの艦長席から、島が微笑みながら声をかけた。
「司大尉、中尉の腕はなかなかのものですよ」
ほらね、と花倫はにんまりする。
「発進、5分前。…補助エンジン、動力接続」
「はいっ!補助エンジン、第1から第3まで動力接続!」
島の声を受け、司がそれを復唱する。
機関長の渋谷が補助エンジンの回転数の上昇を告げ…片品がレーザージャイロ、および反重力バランサーを作動させる。静かな振動と共に、腹の底から湧きあがるような重厚な拍動が昇って来た。
450メートルを越える巨体が、グラン・ブルーの海から浮かび上がる……
「メインエンジン点火、10秒前」
秒読みが下され、巨大な3基のエンジンに再び火が灯った。
「ポセイドン、発進」
護衛艦ヤマトが前方を上昇して行く姿を仰ぎ見つつ。花倫は操縦桿を手前に引いた。「…ポセイドン、発進します」
緑にけぶる苔の星、ディーバ1903が次第に眼下に遠く離れて行く。心持ち身体にかかるグラビティ…ポセイドンは緩やかに上昇を続けた。
「…上昇角25度。第2戦速を維持します」
「…おい、花倫」和也がちらりと後ろの艦長席を振り返り、横から声を落として囁いた。「いいのか、艦長の指示はまだだろ」
花倫は前方から目を逸らさずに返す…「いいのよ」
「上昇角25、第2戦速を維持。高度2万まで上昇後、出力20%増幅」
いいのよ、と言った花倫の声に、島の声が被った。
(…あ・うんの呼吸ってやつか…)和也は目を丸くする。
島も、苦笑していた。
(上昇角を…抑えたな。よく俺の考えがわかったもんだ)
過日、司が傷ついて医務室に伏せたままガルマン星を出発した際。島は発進後上昇角を25度に抑えごく緩やかに大気圏を出た。司はその時、艦橋にはいなかったが、彼はその身体を思い遣って急激な上昇をするのを避けたのだ。
今、病室には未だ体調の万全でないテレサがいる。それを慮って、司は上昇角を同じように抑えた……それが分かったからだ。
(……花倫。お前は…やっぱり大した奴だよ)
俺を越えて、でっかく成長しろよ。
お前ならできる。
操縦席のシートに隠れる司の小柄な姿を見据えながら、島は微笑んだ。
再び静寂に包まれた海…そして大地に、DIVAの歌声が静かに渡っていく。数多の想い、希望…そして別れをその調べに乗せ。
——眩い波動エンジンの噴射光が藍色の空に溶け…彼方の宇宙うみに消えて行った。
〜bye bye DIVA〜「さらば歌姫」 < 了 >
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毎度おなじみ、「言い訳」です(w)。
〜bye bye DIVA〜「さらば歌姫」、これは単純に後日騨。単純にディーバを出発するから、という意味でもあり誰かが何かにサヨナラするから、という意味でもあり…。
司ちゃんとテレサは、お友だちになったみたいですね。そんで、司はヤマトの女性キャラとしては類を見ない大胆不敵な目標、島を越えるパイロットになる!というのを胸に、はばたくわけです。
なんだかんだ言って、このオリスト「奇跡」はテレサの生還物語と同時に司の成長物語でもありました。やっぱ彼女、「1」の古代を踏襲してるんですねえ…。
ERIは島の大のご贔屓ですが、古代無しには島は語れない。特に、「1」の古代くんが大スキです。艦長代理になってからは、ムリヤリその役職の型に自分をはめ込んで、一生懸命大人っぽくしようと努力してるんですが、それが妙に痛々しくて。「永遠に」で、サーシャの居るデザリアムを波動砲で撃てない!…って泣きじゃくってしまうあたりが、彼の素顔なんだよなあ…と思うわけで。
司花倫は、強くあらねばならない古代くんの、心の襞みたいなものを、もっと丸出しにしたキャラなのかも。古代くんが出せずにしまい込んでいる葛藤を、ぽろりと出してしまえる、というかね(w)。
彼女が年月を経てどうなっているのか、見てみたい気もしますが、多分本質的には変化してないでしょう(w)。40、50になってもおっちょこちょいで、ポジションだけはなぜか上の方…艦隊司令とかさ(w)。個人的には、志村と度突き漫才やりながら仲良くやって欲しいですね。で、結婚式の仲人が島夫妻、とかね(爆)。
さて…。「奇跡」本編ですごく問題視されていたテレサのPKですが…。なくなっちゃいました。多分、使い果たしました。その検査もイヤというほど繰り返されたでしょうが、事故が起きるほどの力はもう残っていません。
あと、残ってるとしたら「テレサの中の、アレスに対する思い」はどうなのか、…ってところですが…。
誰にだって、人には言いたくない思い出の一つや二つはあるんじゃないかな、と思いません?島に対して秘密にしてる、というわけじゃなく。聞かれたら話すのかも知んないしね、彼女なら(w)。★
さて、この続きはSS<Episode Jiro>へ繋がって行きますが。
島くんとテレサのお話は、好きでまた描くでしょうけれど、追い続けるとキリがないのでこの辺で。
…では。
読んでくださって、どうもありがとう。またどっかでお会いしましょう。
< ERI >
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