★ 宇宙戦艦ヤマト”原作本編に沿って書いてみた、初のサイドストーリーです。
「2」4話で、命令違反を躊躇する島と、古代に暗に残るよう言われた雪とがヤマトに結局乗り込むまでの経緯を描いてみました。
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「……古代くんが…行く………。また…、戦いに…」
電力の供給がまだ僅かに残る、仄暗い地下都市のメインストリート——。
通風口から流れて来る錆臭い風に、雪の呟きは掻き消された。この1年、輸送艦隊の護衛を担って来たヤマトが、帰還してまだ2日。待ちわびた人は、再び謎のメッセージを追って、宇宙へ飛び出して行こうとしている。
(……ずっと、待っていたのに…)
地球規模の災害や侵略への懸念がないわけではない。雪も、大きな使命のもと、古代と共に戦って来たヤマトの戦士だった。…だが、どういうわけか古代のようには、地球や宇宙の平和や、その秩序を守る…、といったことに強い関心を持つことができなくなっていた。
宇宙の平和なくしては、地球の平和はない……古代くんはそう言うけれど…
(じゃあ、私たちの平和は…私とあなたは、どうなるの…?)
女だ、と言われてしまえばそれまでなのかもしれない。ワーク・ライフ・バランスの徹底されたこの時代、男は仕事、女は家庭…などという概念はすでに前世紀の遺物だった。<女の幸せとは、結婚して家庭を持つこと>……そんな感覚も、もはや廃れたものであるはずだった。
だが、大昔に否定され尽くしたその概念が、この23世紀に再び頭をもたげ、若い者の間に浸透していることは事実である……それ自体おそらく、ガミラス侵攻に抵抗する中で世界の主権者たちが人為的に作り上げた、「生めよ増やせよ」というプロバカンダに過ぎないのかもしれなかったが。だが、雪自身も「好きな相手と結ばれたい、一緒にいたい」と思うことは人間としてごく自然なことではないか、と思うのだ。
しかし。
古代の決心は、どうあっても変わらないようだった。彼に向かって「行かないで」とは言えなかった…いや、言っても彼は、聞き入れてはくれないだろう。
(私には、その証拠に何も…詳しく話してくれなかったわ。古代君、まさか、…私を置いて行こうとしているの?)
地下都市から戻り、勤務に戻らねばならない自分を中央病院へ送り届けてすぐ、古代が改修工事中のヤマトのドックへ向かったのを知って、雪は気もそぞろだった。
森家のひとり娘として雪がそれは大事にされていることを、古代は知っている。
1年前、ヤマトが地球に帰還した時、雪の母親は何人もの花婿候補に彼女を引き合わせようとし、その騒ぎがおさまるまで古代は雪と会うこともままならなかった。だが、古代が一世を風靡したあのヤマトの艦長代理と知って、雪の母親はひとまず納得したのである——娘の当座のボーイフレンドが彼であることに。
だが、地球の復興に拍車がかかり、次々と最新鋭艦が建造されて行く中で、ヤマトは次第に忘れ去られて行った。連邦政府が着手した、水星からの海水の運搬を始め、都市再建に必要な鉱物の採取、輸送のために各連邦自治体はこぞって大型の船を作り上げた。そのどれもにヤマトをベースとした波動エンジン、重火器系統、ワープシステムが搭載された。ヤマトは帰還して半年後には、要らなくなった教科書のように、辺境警備と輸送艦の護衛任務とに回されたのだった。
ヤマトの旧乗組員たちも各々職を得、去就を異にした。メインブリッヂクルーでさえ、ヤマトに残ることを許されたのは、艦長代理である古代と、通信班長の相原だけだった。雪は看護師として防衛軍中央病院に、島は資源輸送艦の艦長に、徳川は防衛軍海底ドックの整備長に、…といった具合である。
そうこうしているうちに、雪の両親はまるで顔を出さないボーイフレンドに愛想を尽かし、古代との交際を渋るようになった。太陽系外に出ているのだから、顔なんか出せるわけないでしょ、と雪が幾ら説明しても、母は「だって、顔が出せなくても電話くらい寄越せるでしょう」と言って譲らなかった。無愛想な男など、娘婿としては論外だというのである。
しかし今、母の思惑など、雪にはもうどうでも良かった。
英雄の丘で「帰還途中に謎の敵と遭遇した」と打ち明け、古代は皆に檄を飛ばした。もしかしたら、今頃、海底ドックで……皆、集まっているかもしれない。
『佐渡先生、島サントイウ方カラ、オ電話デス』
医療用ナースドロイドが診察室の内線を取り、そう告げた。
「あ〜、ワシじゃ。お、島か」
雪は足に怪我を負った患者の包帯を巻き取っていたが、その電話にどきりとした。古代くんが、ヤマトで宇宙へ行こうというのなら…絶対島くんに声をかける。その島くんが、佐渡先生に連絡してきた、ということは…
「佐渡先生、私も行きます」
お前さんはここで待っとれ、と言ってトラネコのミーくんを抱いた佐渡に、雪は訴えた。佐渡はミーくんを連れて行くことで、「どこへも行かん、ワシもすぐ戻る」と暗にほのめかしているつもりらしいが、それが下手な芝居だということくらい、雪にも分かる…。
「…お前さんは残って、いいお嫁さんになる準備でもしておくんじゃ…」
その佐渡の物言いには、雪をまるで娘のように思う心遣いが現れていたが、雪はかたくなに首を横に振った。
「いやです、私を仲間はずれにしないでください!」
(どうしてみんな、私を…置いて行こうとするの?私が女だから…?二度と生きて戻れないかもしれない戦いに、私も参加したことを……みんな、忘れてしまったの?!)
そんなわけで、どうしてもついて行くと言って聞かない雪を伴い、佐渡は島の待つ英雄の丘に向かったのだった。