今日、初めて島さんに怒鳴られてしまいました……
「そんなの捨ててっ!!こっちへ持って来ないでっ!!」
あんな剣幕で怒られたのは、…多分…初めてだったから、吃驚してちょっと涙目になってしまって…。
「ああ、その」怒鳴ってごめん、と彼は取り繕っていたけど、明らかに嫌がっているの。
どうしてかしら…
確かに、地球では嫌われているタイプの虫、みたいだけど…島さんまで。
元々は、熱帯雨林に住んでいた昆虫で、今人の住む場所に出て来るのはコスモポリタン種、というらしい…地球が滅亡の危機に晒されていた間も、人について地下へ移住し生き延びて来たという驚異の生命力。科学局でDNA保存をしなかった数少ない生物だったというのに、もうこの家の中にまでやって来てくれるようになったのよ…?どうしてそんなに嫌がるの…?
「だって、ふ、不衛生だからだよっ」
「不衛生なところを移動してくるって、じゃあ他の虫はそうではないと言い切れますか?そうでないのなら」
「テレサ…そんな屁理屈」
島さんの顔を見ていて、ああ、と何か分かったような気がしました。
島さんはこの虫が、生理的に『嫌い』なのだわ。…可哀想な虫。
気の毒に、と思いながら、掌にじっとしている虫を眺めました。ピカピカ光る黒くて平べったい柔らかな背中の下に、毛の生えたがっしりした足が6本。引っ込んだ顎が、案外強そう。何より、その触覚がくるくるとこちらに向かって輪を描いて……言語解析したら、これは絶対何かを話しかけているに違いないのに……。
でも、島さんが嫌がるのなら、と虫を庭に放します。紫陽花の咲く小さな花壇の中に、虫は消えて行きました。
「さよなら」
でも、また来てね。私一人の時なら、大丈夫だから……
「手、手を洗っておいでっ」
「はあい」
窓辺からそう言われ、私は花壇の隅から腰を上げます。…すると…
「わあ、可愛い……」
花壇の周りに埋め込んだラティスに、白くてまるまるとした…ん?これは何かしら……虫、じゃなくて……
人差し指でちょん、と突つくと、それはきゅっと頭を縮めます。さっきの黒い虫とは打って変わった、緩慢な動き。水分がたっぷり含まれたみたいな、伸び縮みする身体……
「ねえ島さん、これは…虫?」
「は?どれ………ぎゃーーー!!」
てっ、てをあらっておいでって言ったそばからっ〜〜〜ーー★☆……!!
次郎さんのパソコンで調べたら、あの子の名前が分かりました…
そう、白い虫は…「ナメクジ」。
でも。
嫌われている虫さんたちが、テレサはなぜか愛しい、と思ったのでした。
Fin. *************************************
ブログで既出のお話です。
テレサにとってはどんな生き物も愛すべき星の仲間。しかし島の気持ちも分からなくはありません(爆)。頼むから何でも掌に乗せて持って来ないで……(w)(次はナマコあたり、いく?)
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