Jealousy  <7>

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「チョコレートって、美味しいですね」
(彼女の味覚も、チョコに関しては我々と同じなんだな)テレサの手元のボールの中の板チョコが湯煎されゆっくり溶けて行くのを見守りつつ。幕ノ内はふうん、と独り合点した。

「…この溶けたのを、こっちのスポンジにかける…んですね…?」
「板チョコのままでも、もちろん充分美味しいんですけどね」

 ……元々美味しく出来上がってるものを、溶かして別の形に細工する、なんてのはナンセンスなんだけどな…バレンタインの手作りチョコ、って言ったら、なぜかこれだよな。一番簡単だから、仕方ないか。

  そう笑顔で独り言ち、幕ノ内は調理台の前にテレサと並んで長方形のスポンジをハート型に切り出してみせる。

 角を落して、ここを斜めに切ってね。ほら…ハートみたいでしょ。

 この執務室奥の応接間を料理教室として使うのも、おそらく今日が最後だ。調理台の向かい側には、微笑みながらこちらを監視している(笑)真田がいる。

「この、溶けた温かいチョコレートも美味しいです♪」
 はい、味見どうぞ、とスプーンにホットチョコレート状のものをもらって、テレサがにっこり。
「…いっそのこと、この溶かしたチョコを指にでも付けて島に舐めてもらえば」
 そう言いかけて、真田の目から殺人ビームがちらついたような気がしたので慌ててやめた。まったく冗談の通じねえ男だ。

 


「…そういえば、幕ノ内さんの奥様に私、お礼も何も言わずに帰って来てしまいましたね…」
 ふと思い出して、テレサが謝る。

 彼女はどうやら、例の異星人研究機構ではことのほか丁重にもてなされていたようで、まさか自分が誘拐されていた、だなんて夢にも思っていなかった。最後に一緒に居た女性を、いまだに幕ノ内の妻だと思い込んでいるようである。
「あ…?ああ、いいんですよ…、あいつも気にしちゃいませんから」
「そうですか…?それならいいのですけれど」
 テレサが失礼をお詫びしていました、ってお伝えくださいね?
「はいはい。でももうそんなこと、きっととっくに忘れてますよ……」記憶のはるか彼方にね…。

 あの組織の連中の末路を思い出し、幕ノ内は苦笑(いや身震い)した。

 



「さあて、出来た」
「うふふっ♪」
 まあ、フツーのチョコ(でコーティングされた)ケーキ、である。ベルギー王室御用達N社の高級チョコだけを使って、何も足さず何も引かずで作ってるから絶対に間違いはないはずだ。
「始めてにしちゃあ、上出来ですよ」とテレサをベタ褒めする。さあ、じゃあこれが冷えたら持って帰って、ディナーの後にでも珈琲と一緒に出してやんなさい。
「…島さん、喜んで下さるかしら」
「絶対大丈夫ですよ」

 今日は2月14日。今回は、本当に『手作りチョコ講習会』という名目でテレサを呼び出しているし、島もちゃんとそれを承知している。どうせあいつもここで女子職員から義理チョコを幾つももらって帰るはめにはなるのだろうが、この小さな歪なハート型のチョコレートケーキが、島にとっては一番のバレンタインギフトであろう…

 嬉しそうに礼を言って、リボンのかかった箱に入った完成品を手に、テレサは応接室を出て行った。


「ふう〜」  
 ミッション・コンプリート?
 2人どちらからともなく、大きな溜め息。真田と幕ノ内は顔を見合わせ、笑い出した——。
 



           *         *         *

 


 ところが、である。

「ただいま〜」
 嬉しそうに帰宅したテレサの足音に、待ってましたと顔を出したのは次郎と父の康祐だった。「お帰り〜〜♪テレサ」
 2人が何を期待していたのかは当然推して知るべし、である。
 もちろん、僕たちの分もあるよね??


 テレサが困り果てた挙げ句、せっかく作った大介のためのチョコケーキを2人に差し出してしまったのは言うまでもない。
(……そうよね、よく考えたら島さんの分だけ、なんて良くなかったわ。お父様のも次郎さんのも作れば良かったのよ…)
 後悔してももう遅い。しかし幸い、材料の残りをもらって来てあった。

(……じゃあ……もう一度作ればいいんだわ♪)
 スポンジケーキはないけれど、…そうだ!!
 島さんに喜んでもらえた、とっておきのメニューと組み合せれば、絶対に喜んでもらえるはずだわ!そうそう、それから…せっかくだから、真田さんと幕ノ内さんにも……

 テレサはその思いつきが大層気に入り。いそいそとキッチンへ入り、新たな手作りチョコに取りかかった。


                      *



 翌日……長官執務室。
 どうみても具合の悪そうな島が出勤して来て、真田は絶句。

「……どうしたんだ島」
「え…… あの……」
 胃の辺りを軽くさすりながら、島は恨めしそうな顔をした…
「…幕ノ内キャップは、本当に彼女に、手作りチョコをちゃんと…教えてくれたんですか……?」
「もちろんだ。俺が監視していたんだから間違いはないはずだぞ」
「……じゃあ、これ…味見してみてくれます?」
「?」

 またもやタッパーである(三段重ねではなかったが)。

 一見、昨日テレサが作ったのと同じようなものだ……だが、ちょっと小さくて、もっとイビツで。なにやら変わったマーブル模様の入った、ごっついガナッシュ……といった風である…
「…? これは、テレサが?」
「…ええ。……実は、真田さんと幕ノ内キャップの分もあるんですけどね…」

「…俺の分も…?」

 ぱくりと一口食べて……目が白黒した。
「おげっ☆」
 ……なんじゃこりゃ…!


「……どうです…?」
「……………」
 チョコでコーティングされていたのは、酢豚(ご丁寧に甘酸っぱいブタ肉とニンジンとピーマンと玉ねぎが塊で)だった………



「俺…… 俺……」
 夕べ、これを一皿、食べるはめになったんですよぉ…。
「この上彼女に、不味い、なんて言えないじゃないですか。…死ぬ気で食べましたよ…。でも、さすがに胃に来ました……」

 可哀想に!!


 さしもの真田も、今回ばかりは島に同情した。 

 この一口でも失神しそうな酢豚チョコを、一皿も食べたのか、お前……?!
 どんだけ彼女を愛してても… あれは… 辛かったですよぉ……


「ううう…さ…真田さん〜…」
 島は思わず真田の胸に縋り付いて、情けない泣き声を上げた。
「……そうか…辛かったな…」
 腹に力が入らない島を抱きかかえ、背中をさすってやる。大丈夫か?胃薬、やろうか?
「うええ〜〜〜ん……」
 島が真田の優しさに、こみ上げるものをぶちまけた時である。

 ——執務室のドアが小さなノックと共に開いて……



「……し…ま…さん?!」

 具合の悪い夫を心配して、思わず追って来てしまったのだろうか、そこには衝撃に顔を歪めたテレサが立っていた………

 



                               <おしまい> 笑。
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<あとがき>


 ……おい(w)。
 え〜〜、タイトルのJealousyとは。

 誰が、誰に?

 …もうお解りですね……(笑)……。
 どっちにしても巻き込まれる真田さんなのでございました。ほほほ。

 

 

 う〜〜〜、ついに書き切ったぞ。

 ERI初挑戦の「島でお笑い」。しかし、笑わせるのってホント難しいよね。

 実は、ちょっと前から某お笑いの女神様に「島をお笑いに進出させて!」と熱いラブコールを繰り返しておりました。

 ところがですね…、本編では、島大介っていうヤツは完全無欠沈着冷静質実剛健職務忠実な(カンタンに言えば石頭な)笑えないキャラだと思われているらしく(爆)、しかも惚れた女は親友にとられるわ、次の本命には逃げられた挙げ句説明もなく恩を着せられ死なれてしまうわ(おい)という、散々な女運の男。笑い飛ばすにはあまりにも不憫、「島くんでお笑いなんて、恐ろしくてできんわ」と長いこと拒否られていたのでございます。 まあね、それも理解はできます(おいこら)。だからね、そんならまあ、しょうがない自分で書いたるわ、とね…(丁度某工作班のお笑いの神様サイトとリンクもさせて頂いたことですし…。)

 ただ、ERIがその「お笑いの女神様」にしていたリクエストというのは、「『2』でヤマトが地球に生還した後、入院している時期の島を、お笑いに」というものでして(あ、やっぱ、ムリ?)。

  だぁってさあ、あの時期にこそ笑わないと!イタイだけじゃん島!!いいですよ、百歩譲って「ヤマト一女運のない男」ってレッテルは甘んじて受けましょう。しかしですね……(ああもうウザイ。面倒くさいからもうここでやめる)爆)。

 

 てなわけで。この話、カテゴリも『イレギュラー設定』ってトコに分類されてますんで、ソレで一つ、けじめつけたって事で…(うう、クソ!いつかお笑い上級者になってやる!!)笑。

 

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