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恥ずかしそうに、自分を脱衣所から閉め出したテレサ。
そりゃないよなあ、と思いつつシャワーの音が途切れるのを待っていたが、バスタオルを巻いただけの姿の彼女が「いいですよ」と浴室のドアから手招きしてくれたのを見て、一挙に加速する大介である。
長い髪を、フェイスタオルに包んでいる。濡れた肩に、はらりとこぼれている金色の後れ毛が、艶かしい…
「このスイッチを押すんですね」
大介の視線などおかまいなしのテレサは、緊張しながらジェットバスのスイッチを入れた。
「…テレサ」
思わず抱きしめようとしたが、彼女が浴槽の中を屈んで覗き込んだので空振りする……くそ。
「まあ、すごい…」
ゴバァ…!と噴射する泡に驚く彼女がまた可愛い。
じゃあ、その巻き付けてるバスタオルは取ってだね……。
後ろからそっと彼女のバスタオルを引っ張ろうとした途端、テレサが振り向いた。「…島さんも、入りませんか?」
手を引っ込めて、愛想笑い。
おお、そりゃあ入るとも!!
「じゃあ、服を脱いでいらして?」
ハイハイ、言われなくても……♪
そそくさと脱衣所へ戻ろうとして、ふと振り向いた。……クソ…。
テレサは大介が背を向けたほんのちょっとの間に、バスタオルを外し、ジェット噴射で何も見えないバスタブの中へとぷん、と浸かっていた。
「わあ……!!」
吹き付ける泡から生まれ出たヴィーナスみたいに、彼女の肩と胸元が光っている……
まるで入浴剤のコマーシャルのようだ……と大介は思った。すごい露出度だと思っても、肝心なところはなにも見えない……
「ねえ、島さんも、早く脱いで、来て♪」
こんなシチェーションでなければ、恐ろしくセクシーな台詞なんだが……
苦笑いしながら、とっとと脱衣所へと戻った。
半ば慌てふためきながら服をかなぐり捨てていると、脱衣所の鏡に目が行く。半身が映るほど大きい鏡を置いたのは、俺の趣味じゃなく彼女の希望だ。操縦桿を握るから否が応でも鍛えられてしまった上腕筋、背筋。大胸筋はそれに見合うように自主トレで鍛える……、古代に負けてない、結構良いセン行っていると我ながら思う。
……よし。文句無し。
何が文句無しなんだかよくわからないが、ともかく、上半身は文句無し。だが。
「げ」
そりゃあなあ、仕方ないよなあ……この状況じゃ。
鏡の中の下半分の自分は、文句無し、…という感じではなかった……
(……彼女、気がつかないと良いんだけど)
かなり、焦る。
顔は平静を装っているのに、ごく一部がこう元気いっぱいでは、なんだか間抜けだ……しかし、致し方ない。
(もういいや。……波動砲発射準備完了、で行け!)
「テレサ〜、どうだい〜〜」
湯気の立ちこめる浴室に、そそくさと戻る。
「テレサ…」
浴槽の中の彼女は、その美しい肢体をすんなりと伸ばしている。ジェットバスが立てる泡も、そのすべてを覆い隠してしまうわけではなく……
ところが。
「あれ」
おい、ちょっと!!!
急転直下。波動砲どころではなくなった。
「大丈夫か、おい!!」
テレサは、浴槽の中で気持ち良さそうに……気を失っていた。
* * *
(おいおいおい、冗談じゃないよ)
浴室の隣に寝室があって、ほんっとに良かった!
それを、こんな早くに……しかもこんな状況で実感するなんて思いもしなかった。
バスタブからクタッとしたテレサを抱き上げ(もうちょっと太った方が良いなといつもながら思う)バスタオルで包んで、そのままベッドへ運ぶ。
……理想的なシチュエーションだと思ったが、これは想定外だ。なんか違う。
「おい、大丈夫か…!?」
そういえば、彼女は「体温が上がるのよね」とそれを心配していた…
ともかく、慌ててバスタオルを追加し、全身を覆った。
どうも、子どもの頃からの癖で「冷すと風邪を引く」というのが頭にある……実は、テレサの場合はその逆だったとあとで分かるのだが。
彼女が生まれ育ったテレザートは、気温の上下が少ない空洞惑星だった。気温のほとんどは、地熱が左右していた…だから、丁度地球で言えば北半球の北欧や英国のような、寒い場所で彼女は育って来たのである。熱さに弱い。そして、気温の変化、湿度の変化、体温の変化に弱かった。つまり、短時間で地球人よりも早くのぼせてしまい易いのだ。
ふう、と彼女は息を吐いている。
頬が火照って、ピンク色だ。
(でも、気持ち良さそうなのはなんでだ)
心配しつつも、頬の水滴を拭ってやると、テレサがゆっくり目を開いた。
「…島さん」
「大丈夫?」
「…ええ」
私、お風呂に入ってて…眠っちゃったのかしら…?
ぼうっとしてそう訊くから、そうだよと答える。
「……のぼせちゃったみたいだね」
ああ、しかし……ビックリした!
おかげで、自分は素っ裸のままである……それを、忘れていた。
「……島さん……入ろうとしてらしたんじゃないの?」
ごめんなさい、私がのぼせちゃったから。テレサは、大介の上半身が裸なのを見て、ちょっと照れたような素振りをする…。
「いや、いいよ…あとで」
当然、こんな格好でベッドサイドに突っ立っているのは忍びない。これが自然だろ、とベッドの上の彼女の横に身体を乗せた……
「あの…」
「駄目?」
ぽっと頬を赤らめる彼女が、ものすごく可愛い。
「……そんなつもりじゃなかったんですけど…」
「俺だって」
いつだって、そんなつもりじゃない、…んだよ。
けど、いつのまにか、そんなことに…なっちゃうんだ。
「ねえ、あの…、島さん、…お風呂は」
入るよ。
……キミの中に入ってから。そのあとで、ね……
「……あ…」
今度は、もう少し温めのお湯にしよう。
火照ったキミの中と同じくらい……37℃くらい…?
あン……ん……そう…ね……それなら、のぼせない…かも……
「37度?」
その晩。
——こんな温度の風呂じゃ、全然温まらないでしょ、と次郎が浴室を覗いて言ったのだが……それについては大介もテレサも、笑って答えなかった。
ん?
あったまったよ?ね、テレサ。
<おしまい>
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<あとがき>w。
けしからん。
何やってるんだ。
島大介、宇宙戦士だろキミは!!こんなことバッカリしてていいのか!?(w)
まあ、ぬるめの半身浴が健康に良いのは確かですが、なんか間違ってるだろ!! と突っ込んでみる。……言うだけ野暮ですか、ハイ。
ちなみに、この小咄の挿絵は、第三艦橋さんへ行くと見られる…かもしれません(w)。敢えてリンクなぞしませんが。
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