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「分からない人だな、君は!」
「…島さんこそ、……石頭じゃない!」
「い……し頭」
ちょっと待った。
古代には何度もそう言われてるが。
まさか…君にまで。
「もう怒った!」
大介は勢いよく立ち上がって、彼女に背を向けると部屋を出た。…追いかけて来るかと思ったが、その気配もない。大概、意地っ張りだからな……テレサも。
(……もう知るか。しばらく口利いてやらないからな)
我ながら幼稚だとは思う。
けど。
君が、こんなに分からずやだとは思わなかったよ……!
* **
テレサは勢いよく部屋のドアが閉まるのを背中で聞いて、負けじとベッドにどすんと座った……
(なによ、……分からずやは島さんよ)
どうして分かってくれないの?!
部屋の床には、小さな箱が置いてあった。
有名デパートの、花柄の包装紙が破けて申し訳程度にくっ付いているこの箱の中身を一目見て、大介は有無を言わさず「駄目だ」とテレサに言ったのだ。
(せっかく、雪さんが贈ってくれたのに)
駄目だなんて、あんな頭ごなしに。
なんで駄目なのか、ちゃんとした理由も言わなかったくせに。…そういうの、石頭、って言うんじゃない……!!
口をへの字に曲げたまま、テレサは箱を拾い上げた。光沢のある薄紙に半分隠れたその箱の中身は、………水着。…ビキニである。
(なんでこれが、駄目なのよ……)
色は、なんの飾り気もない黒。
三角の布切れが3つ…という感じの、とっても生地の分量の少ないタイプだけど、すごく、カッコいいのに。
雪は最初、あなたはこういうイメージだからこっちの方がいいんじゃない、と言って、白いフリルのたくさんついたセパレートタイプのタンキニをテレサに勧めた。
ところが。
(雪さんは、カーディナル・レッドのカッコいいビキニを選んでるんですもの。なんで私はフリルなの?しかも下はスカートみたいになってるし…。もっとカッコイイのがいい……そうゴニョゴニョ言ったら、笑いながら、「じゃあこれは?」ってこの黒を)
「島くんが何て言うかしら」
雪さんはそう言ったけど……
だって、これは私のスイムウエアで、島さんがこれを着るんじゃないでしょう?
「まあ、それは、そうだけど」
きゃはは、お腹痛い………。
雪さんたら、笑い上戸ね。
けれど雪は、そうやって2人で見ていたウエッブショップの商品を、「プレゼントよ」とテレサに買って贈ってくれたのだった。
* **
怒って部屋を出た大介だが、庭に出て澄んだ空気を吸った途端、後ろ髪を引かれ始めた。
(まったく、雪のやつ……、何テレサにくれてんだよ)
黒のマイクロビキニって。
あああああの、か、隠してんだか隠してないんだか、分からんほどの…。下なんか、あれじゃ病院のT字帯じゃないか。ふ、ふ…んどしみたいな。
とはいいながら。
その、T字帯と隠してんだか隠してないんだか分からんほどのブラとを身に着けている彼女を想像し………
(ぶーーー)
「絶対駄目!!何が何でも駄目!俺は許さんからな!」
2階の寝室にいる彼女に聞こえるくらいの声で、大介は叫んだ。
「あれを着ていくんなら、海には絶対行かないっ」
2階の窓が、するするっと開く。
金色の髪が、風に引かれてなびく。彼女が窓から顔を出した。ついで窓枠から伸びた白い手、腕。
「………!!」
窓をすっかり開けた所に立っていたのは、白い肌に黒いマイクロビキニを着けた……テレサ。
「……どうして駄目なの!?」
ねえ、ほら、見て。
素敵でしょ……?!
「★@%#&“☆!!!」
声にならない叫び声を上げ、大介は家に走り込んだ。階段を駆け上がる。
「もう、もう…テレサっ、…君は〜〜……っ」
ままままどをしめなさいっ!!
駄目だ。なんか鼻から出てるかも…鼻血?…そう思い、懸命に洟を啜る。部屋の中には白い肢体を黒い布切れで申し訳程度に隠した、まさに輝く女神のような彼女が立っていた。
「……駄目なの…?」
そんなに怖い顔して。…島さん。
テレサは大介の、複雑に苦虫を噛み潰したような顔に、ついに肩を落とした…
「…あなたがそんなにイヤなのなら、…諦める…」
「違う!!」
テレサは驚いた…なぜかと言えば、叫んだ拍子にいきなり大介が自分を抱きすくめたから。
「島さん?」
「……それを着てくんだったら、ほんとに海へは行かないぞ。着たかったら、…こ…この部屋でだけ、着ればいい。海へ着ていくのは俺が、選んだのにしてくれ」 南部だの相原だの、太田だのも来るんだから。
テレサは思い浮べた。
………青いワンピースタイプの、しかも長いパレオの付いた…あれ?
(なんだかつまんないな。普段の服と変わらないじゃない…)
しかし、分かったわ、と言わなければ、大介はテレサを抱きしめた腕を放してくれそうもなかった。
「……分かったわ。じゃあこれは、ここでだけ着ることにします」
ん?
でも、なんで?
ここでこれを着る意味、ないじゃない………
「き…君はもっと勉強した方がいいな、色々」
「勉強って」
ところがテレサが勧めに従っても尚、大介は腕を放そうとしなかった。「そういうビキニは、もっと肌の色が黒くないと似合わない。君みたいにまっ白な人には、黒は似合わないと思うぜ」
「じゃ、日焼けすれば…」
「駄目だ!」
んもう…!!
島さんの石頭!!
「うるさい」
駄目だったら、駄目なの!!なんでこんな奇麗な肌をわざわざ焼かなきゃなんないんだ!言っても分からないなら口を塞ぐしかないな!
「あっ…んむ……!!」
島さん、島さん……どうしたの?
怒ったり、怒鳴ったり、………優しくなったり。
——優しくなったり………。
雪さんの選んでくれたマイクロビキニは、2秒で脱げる。だから、それは今ベッドの下の床の、箱の中にするりと落ちて行って。
「あ……ん」
「テレサ…テレサ……」
そうね、私はもっと勉強した方がいいのかもしれないわ……
どうしてあなたが、「あれ」を着て外へ行っては駄目、と言ったのか…
「島さん?」
「ん…?」
「あのビキニは、こういう時のためのものだったのね?」
「………テレサ」
違うから。
そーいうんじゃないから。
結局、ベッドの中で何も着ていない、という状態になってしまったけれど。あの水着を着たテレサを海に連れて行けない理由なんか、大介には上手く説明できるわけもなく………。
「ねえ…」
「うるさい」
「んむっ」
やっぱり、口を塞いじゃえ、ってことになって。
この喧嘩の勝敗は、うやむやになりました、とさ——。
<おしまい>
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<言い訳>
……あー、えー、その。
最近ラブが少ない、とかゆー人がいるので(w)、ストックから「けしからんお話」をひとつ、出して参りました。
ええと、ERIのパソコンのデスクトップには『プロットの箱』というアイコンがありまして、そん中に、こういうけしからん短編がいくつか常に入っております(w)。
とにかく、テレサに対する島っていうのは、どこのオリストさんを見ても常にジェントルマンでして、ERIはそれが大変つまらないと思っておりまして…(おいこら)
まあ最初のうちはそりゃあそうだったんでしょうけども、いつまでもずっと彼、ジェントルマンだと思います?? 基本的には彼は紳士なんでしょうが、普段のヤマトでの彼は、それはそれはお茶目(w)でぶっきらぼうです。だから、テレサのことも「うるさい」って言って、キスで黙らせる。そのくらいはします(爆)いや、してほしい。(w)
その辺が、これが「けしからんお話」と呼ばれている所以です(w)。
しかも島、ムラムラきちゃってるからね。加えて十代の娘の服装にうるさい過干渉親父のような頭ごなしの「駄目出し」。そしてその男心の分からない、天然ボケのアブナいテレサ。まあ、そういう点ではこの「けしからんお話」も「王道」といえば「王道」でしょう、島×テレサのオリストの(爆)。
この後も実はこの話、続いてるんですが、もっとアブナいのでここでちょん切りました。だって、島に勉強しろと言われた彼女はネットのオトナの世界に踏み込んでしまい、それを実践しようとするんですから…(w)。
え……?
一番けしからんのはお前だ…?純真なテレサちんに何をさせるんだ、って?
え? えええーーーー???!!
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