ラジオドラマ「大放浪」

  NHK特別企画 SFワイドスペシャル「大放浪」

 主演/ツトム・カナコワ・フォクスワース(仲村秀生)
    ブルー・ローズ         (鈴木弘子)
    RR                (若山弦蔵)
    RRの秘書 ブロムフィールド    (納谷悟朗

          ルビー         (池田昌子)
    イサベル・シモン        (武藤礼子)
    ジャン・ピエール・シモン    (巌金四郎)
    ジョン・ロバーツ        (羽佐間道夫)
    タイタン船長ビリングワース   (島宇志夫)
    ファン・ロドリゲス       (堀勝之裕)
    ドン・マルツバーグ       (納谷六朗)
    マーシャ・ロマノフ       (小谷野美智子)
    アーマゲドン艦長クレイトン   (小林修)
    VTOL隊隊長シェパード      (中田浩二) 他
  
    原 作/田中光二    
    脚 色/田波靖男

    演 出/宮田 修
    テ—マ曲/松崎しげる
    本放送/1978年8月19日
    収 録/1978年7月29・30日

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<あらすじ>

カリフォルニア工科大の学生ツトム・カナコワ・フォクスワースは、恋人ブルー・ロ—ズと二人きり、南太平洋の無人島でバカンスを楽しんでいた。ツトムの天才的頭脳と気象工学技術の駆使により、無線もレーダーも利用せず無人島からアメリカ西海岸まで航海し、帰国した二人。…しかし、帰り着いた港には異変が起きていた。

 上陸した故国の港町は、得体の知れない病原菌に侵されて死んだ市民たちの遺体で埋め尽くされていたのである——

 生き残った人々から、魔の病原体の存在を聞いた二人。しばらくのち、ブルーまでもがそのウィルスに侵され、病死してしまう。一人感染も発病もしないまま生き延びたツトム。だが、嘆き悲しむうちに彼は胸に下げていたロケットペンダントの存在を思い出す…それはある人との約束で、絶対に外さないと約束したものだった。ブルーはそれを、他の女性からの贈り物だと誤解したまま亡くなった。だが、実はこのロケットの贈り主こそが、ツトムを生き存えさせた張本人だったのだ。

 記憶は数ヶ月前に溯る。ある謎の大富豪、RRと名乗る老人の招きで赴いた、不思議なパーティ——。そこでツトムは大勢の「天才」たちと出会い、「不老不死のドリンク」を飲まされたのである……その場所で、彼はRR本人からロケットを託された。それを肌身離さず身に着けていなさい。そう遠くない将来、我々がきみの頭脳を必要とする時が来る。そのロケットに赤い光が灯った時、中にあるものがきみを我々のところへ導くだろう——。

 ブルー・ロ—ズの墓の前で、ロケットが光っているのを目にしたツトムは、その中に隠された地図を見つけ、ある場所へ向かう。そこでツトムを待っていたのは、巨大な飛行船<タイタン>だった——。


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 この作品が録られたのは、丁度「宇宙戦艦ヤマト2」の収録開始の直前、という時期でしょうか。仲村さんのお年は当時43?今の私たちと同じくらいですネ。

 全体で正味2時間半のラジオドラマです。二日間で収録しているのだそうですが、実質どのくらい時間をかけたのでしょう?通常、30分アニメなら5時間とってアテレコをやると聞きますが、とにかくこの作品、仲村さんは出突っ張り……
 ドラマはツトムの独白をナレーション代わりに進行します。なので、実質ナレーションも仲村さんなんです。だから、例えばツトムが叫んだ直後にナレーションが入るわけで、ずっとその繰り返しなのです。

 仲村さんにお訊きしましたら、この作品はNHKの大スタジオで録音したのですが、マイクは2本しかなく、ナレーションとツトム役を演じる仲村さんはその2本の間を行ったり来たりしたとか。ノイズが拙いので靴を脱いで(w)僕だけが靴下の足でやっていました、というお話。
 そんな離れ業を繰り返していたにもかかわらずスタジオ内の雰囲気はとても良く、不思議とトチリもなかったとか。楽しい現場だったようです(^^)。
 

 さて、内容に関して、(あいかわらず稚拙な表現ですが)率直に感想を書いてみましょう。

 イントロのテーマ曲の後、主人公が無人島の海辺で恋人と戯れるシーンから物語は始まります。

 ……もう第一声からなんという…。あの…セクシーなお声……。いえ、相手役の鈴木弘子さんもとってもセクシーなのですが、仲村さんのお声が……。
(最初の恋人・ブルー・ローズ役は鈴木弘子さん。後から出て来る人妻イサベル・シモン役が故・武藤礼子さんです)

 ブルーに呼び掛けるツトム(秀生さん)の声に、もうドカンと脳髄を撃ち抜かれました。
「ブルー、僕の素敵なブルー…。愛してるよ」…って。
 ボクの、って〜〜〜〜……あ〜〜いきなり鼻血が出るかと思いました。
 どうしましょう…これじゃただの変態です、ああ恥ずかしい…(大汗)



 やっぱり、秀生さんの演じられるヒーローは、一人称「僕」が最高ですね。あの身体の芯に響くような「端麗な濁音」の「ボ」!それだけで目が醒めるような思いです。
 他の役では「俺」とか「わたし」も使われますが…、知的・理性的ヒーロー(例えば外科医のギャノン、この「大放浪」のツトム、「ヤマト」の島大介など)は一人称が大体「僕」。秀生さんの『濁音』が堪らなく好きな私としては「僕」を推します。…でも「俺」という発音の『オ』の深みも捨て難いところ。……うーん、悩ましいです…。


 ところで、登場人物のブルーとイサベルの容姿の描写はあるんですが、ツトムの容姿の描写は少ない…
(カリフォルニア工科大の天才学生だとか、IQ165だとかは出て来るのですが…)そこでどうしてもそれを脳内で補う必要が出て来ます。原作者(田中光二氏)が男性なので、野郎の見てくれなんかどうでもいいんでしょうか?(w)とにかく、主人公ツトム・カナコワ・フォクスワーズはハワイ出身の日系アメリカ人で、若くて容姿端麗で天才的頭脳の持ち主、という設定のみ。勢い、イラストを生業にもしていた私はそのビジュアルを思い浮かべてしまいます。
 ……クセのある黒髪に黒目がちな大きな瞳、凛々しい眉毛。当時流行のちょっとキザな長いもみあげ(w)、知的な感じのする額と鼻筋が魅力的な…(←コレはダレ?!笑。しかも最初登場するときは多分水着姿に銀色のロケットペンダントだけ。なんたる罪なビジュアルでしょうか……)

 そんなことを考えていたら、クラクラしてしまいました。
 アレが放送劇で、仲村さんが役者でなければ理性が飛ぶところです……。



 まことに、「声だけ」というのは罪なものです。ことに、仲村さんの演じる役柄は「理知的ヒーロー」という設定はあれど、役の表情を作り出しているのはまさしくその「お声」だけ。主人公の「笑顔」、恋人に甘える顔、からかう様子…それをすべて脳内にビジュアルとして再現させてくれる「声」の優しさ・柔らかさ!
 なんか書き始めるとキリがないので(←照れている)この辺で切り上げますが…(苦笑)。

 このラジオドラマ、主演の仲村さん曰く「こんな(素晴らしい)メンバーで仕事をすることはもうないでしょう」という、まさに超豪華メンバーで構成されています。
 重厚な鎧扉が開くかのような声の悪役を演じられる若山弦蔵さん。忠実で謎めいた秘書役の納谷悟朗さん。気弱な詩人役の納谷六朗さん、羽左間道夫さんや中田浩二さんのお声も聞けます。秀生さんに加え、脇役を主演クラスの声優さんが固めているんですよ。
 恋人役、女性陣にも触れておきましょう。
 鈴木弘子さんのブルー・ローズは、奔放な若さと色気を纏ったナバホインディアンの娘の声を見事に演じられていましたし(正直、その演技にはドキドキしました!)天才ピアニスト、人妻イザベルの品の良さは武藤礼子さんのお声のおかげでさらにしっとりと磨かれていました。私、武藤さんの小鳥のような(分かりますか?小鳥がチチチ…ってさえずるようなしゃべり方を時々されるんですが…)発音の仕方が、とてもチャーミングだと思っていまして……。実際にあんな風にしゃべる日本人ヒロインはいないのかもしれませんが、洋画のヒロインの、モダンでコケティッシュな感じがすごく出ていて好きでしたね。なぞの秘書役で登場する池田昌子さんも神秘的な役どころです。



 ツトムの恋人ブルー・ローズは、中盤で、世界中を死に陥れたウイルス病原体の餌食になり病死してしまいます。
 その死を嘆くツトムの声が…また。
 宇宙戦艦ヤマト2の島大介も、やっと出会えた思い人「テレサ」を失いますが、彼の場合は「哀しみを堪えて戦いに赴く」という抑えた演技でした。島大介は、物語の進行上、そういう抑えた演技を強いられた人物なのだとは思いますが、それに較べると、この「大放浪」のツトムはずっと情熱的。恋人の臨終に、その名を力の限り叫ぶんですよ…。あんな風に嘆いてもらえたら、きっと思い残すこともないだろうなあ、と思えるほどの慟哭。

 シナリオにはおそらくただ、
 『ツトム「ブルー!ブルー!…ブルー!!」』

 とだけしか書いていなかったかもしれませんが、それを魂の叫びにまで変換しての演技…。普通俳優さんが全身使って表現するところを、声だけ、ですからね……
 そう、もっとも重要なのは、このツトムはアテレコのキャラクターではない、ということなんです。まったく、100%「声だけ」のキャラクターです。それなのに、ツトムの笑顔も正義感も、恋も失望も。嘆きや慟哭までがありありと脳裏に浮かぶ…。まさに、声だけでパーソナリティが完成されたキャラクターです。

 

 ***


 物語は、地上を席巻する魔のウイルス病原体から逃れるために飛び立った巨大飛行船「タイタン」に移ります。原子力飛行船タイタンは、謎の大富豪RRが人類滅亡の危機に際して建造した、天才ばかりを集めて生き残らせるためのいわばノアの箱船。RRの意志で集められた知的財産とも言える人々、通称「ゲスト」が、ウイルスの特効薬・不老不死の飲みもの「ネクター」を服用し、各国でタイタンの到着を待っている。彼らをピックアップするため、タイタンは世界各地を回ります。しかし、この人類滅亡劇は、自分の望んだ人物だけを集め、虚構の楽園を築こうとしたRRが自ら仕組んだものだった……。ツトムは僅かばかりの同志たちとともにRRの野望を阻止するためタイタンを降り、戦う決意をします…

 この、正義の闘いを決意するきっかけとなったのがツトムの新しい恋。亡くなった恋人の思い出を引きずりつつ、憂えるツトムの前に新たな「ゲスト」が現れる。高齢の著名な哲学者を夫に持つ天才ピアニスト/イサベル・シモン嬢(武藤礼子さん)です。

 突如2人は恋に落ちてしまうんですが(そのシナリオの唐突さにはちょっとびっくりしたけど)、私が聴きながら「およよ」と驚いたのは、仲村さん演じるツトムの、新しい恋人イサベルへの声が、かつての恋人ブルーに対する声の表情とはまったく違ったということです。
 ブルーは年下の溌剌とした恋人。イサベルは多分年上(しかも人妻)。ブルーに対しては同級生か兄のような接し方ですが、イサベルに対しては年上のお姉さんに甘える感じ……。
「恋する男の演技」を「区別していらっしゃる」んですよ。あああ、またしても、演技者としてはそんなの当たり前じゃないカア!!とは思うのですが…。

 このドラマの中で私たちは、仲村さんの持つ2通りの「恋する男」の声を聴くことができるんですよ!(うはーー…なんと贅沢な)……しかも付け加えるならば、そのどちらも島大介と同じタイプの声ですよ……?


 どちらの恋人とも、波打ち際で戯れるシーンが出て来るのですが、笑いあう声の表情とかがまるで違うんです。もう、困っちゃいましたよ…(また赤くなってる。ほとんどヘンな人状態…)。どう困っちゃったのか、についてはなんともかんとも…いやはや、「聴いてみてください」としか言えないですが…(それじゃヘビの生殺し?)。



 この後、今度は「天才、闘う」といった話の展開になって行くんですが、そこではおなじみ、「宇宙戦艦ヤマト」の島大介役においても聴ける、「勇ましい演技」が繰り広げられます。
「(その任務を僕に)やらせてください!」というセリフの、「ください!」が個人的にぐはっ!!と来ました。この4文字すべての音が、最高にカッコいい!!全部、語尾の「!」までが、喉の奥から出る低音で割れる感じ(分かります?分かります?)!! 甲高い声の自分には、あれはどうやって出しているんだろう…??と常々不思議でなりません。柔らかい声のはずの秀生さんが、あの割れた低音で決然と話される……そのギャップがものすごいツボなんです。

 うーん…だんだん、自分にしかわからないレビューになってきました…

 「聴いてみてください」としか言えないようでは、レビューではない、と思いますが……だってしょうがないじゃありませんか(開き直ってどうする…)。
 でも、これを読んでくださった方が、「ぜひ仲村さんの出演作を他にも見てみたい・聴いてみたい」と思ってくださるのならば、一応は成功しているんじゃないかな、なんて思います。(ヤマトだったら島の贔屓が増える、ってことですもんね!うしし!)



 物語終盤。
 結局、謎の人物RRも自ら作り出した魔のウィルスにやられ、ツトムは戦わずして生き残ることになります。主人であるRRの凶行を否定し、逃れて来た秘書ブロムフィールド(納谷悟郎さん)から、ウィルスのワクチンが手渡され…。生き残った人々は救われます。

 ツトムは、ほぼ無人島になったハワイで、イサベルと新たな人生の第一歩を踏み出すのでした——

 と、「大放浪」はそんな物語でありました。

 


 とにかく、全編仲村秀生さん満艦飾!な作品です。CDで発売されていないのが本当に残念です……

 

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